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「洋子ちゃんから聞いた。まあ、彼女の連絡先手に入れるのも大変だったけどな」
公園の砂場で一人黙々と遊んでいる桜子ちゃんをベンチに座って見つめる。
「だったら洋子から俺の連絡先聞いて普通に会えば良かったんじゃないの? 別に美容師になる必要ないし」
「どのみち手に職つけないとまともに稼げなかったからいいんだよ。それに慧が器用だから美容師なればって言ったんじゃねえか」
それは確かにそうなのだが、そんなまどろっこしいことをしなくても、と思わずにはいられなかった。
「……俺ってそういうところ卑怯なんだよ」
突然の感情の乗っていない平坦な声色に驚いて顔を覗き込む。
「外堀埋めて完全に逃げ場無くしてからどんな手使っても手にいれてやるって思ってたし。ちょっと計画狂ったけど」
俺の目を見て「怖いだろ」と笑う。が、口は笑みを浮かべているのに、目が全く笑っていない。身震いする俺を見てシゲはいつものように「ははっ」と子供っぽく笑った。
「まあ、観念しろよ。俺に愛されたのが運の尽きだ」
このタイミングで「愛」だとか言い出すところが、本当に卑怯だと思う。ふと見ると桜子ちゃんが三つ目の山に見事トンネルを開通させていた。飽きないのだろうか。
「……シゲちゃんも覚悟した方がいいよ。俺以外の奴抱けないようにしてやるから」
隣でシゲがふっと息を吐くように「そりゃ楽しみだな」と笑った。
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