再会

4/7
497人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
 その時カランと店のドアに付いているベルが鳴って、セミロングのブラウンの髪の若い女性が入ってきた。俺の固定客だ。美容師を始めて五年。スイッチの入れ方だけは誰よりも上手い。 「いらっしゃいませ! 竹田さん、一ヶ月振りですね。荷物お預かりしますよ」  笑顔で紺のベロアジャケットと白のショルダーバッグを受け取り、カウンターの奥の棚に札をつけて仕舞う。 「こちらへどうぞ」  さっき雪菜が用意してくれていた席に客を座らせ、髪に触る。毛先が痛んでいるが、それはカットでカバーできるからダメージケアをする必要はないだろう。 「今日はパーマとカットですよね。何か雰囲気変えたい感じですか」  半年ずっと担当してきたが、カラーリングとカットのみだった。大学生と言っていたから、もしかして近々合コンがあるとか好きな人ができたのだろうか。まあ、そういうのを直接的な言葉で聞くのは気に障る人もいるから、遠回しに訊ねる。 「そうなんです! 実は大学のサークルに気になる後輩が入ってきて! 今日新歓コンパだからアピールしなきゃって」  予想は的中。好きな人ができたとか恋人ができたとか、振られたとか別れたとかで髪を切ったり色を変えたりする人は多い。気持ちは痛いほど分かる。俺だって、かつてそうだったから。 「どういう雰囲気とか決めてます?」 「全然分かんなくて、慧さんが似合いそうって思うのにして欲しいです」  「似合う髪型」を求められることはままあることだ。しかし実際俺が似合うと思っても本人が納得しないと意味がないので、一緒に髪型を決めていくのがベスト。ドレッサーに並べられた雑誌の中から今シーズンのヘアスタイルが特集されているカタログを手に取る。 「カットは毛先を整えるくらいで長さは変えない感じですよね」 「はい、できれば長いままで」  セミロングのヘアスタイルのページを開いて、「この中だと竹田さんに似合いそうなのは」といくつか挙げてその中から選んでもらう。が、それでも選べない様子だったので「個人的には」、と服装と化粧の仕方から考えてワンレングスをベースに中間からゆるくパーマをかけたナチュラルスタイルを勧めた。すぐに「じゃあそれで!」とあっさり承諾したので、恐らくそれがいいなと思っていたのだろう。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!