エピローグ

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 早々に話が詰まらないという理由で店から締め出されて帰宅する。部屋の電気を点けて、ふと白いうさぎのあみぐるみが視界に入った。今度桜子ちゃんに会う時に渡さないとな、と忘れないように玄関の目につく場所に置く。  シャワーを浴びて髪を乾かし、寝ようと電気を消す。スマホを見るとアプリの通知が来ていた。ベッドに横になりながら、アプリを開くとメッセージが届いていて「森繁茂雄」という漢字四文字に心が踊る。  「来週の休みに養父母の家に桜子が泊まることになったから、よろしく」と絵文字もないあっさりした文章。――いや、待て。その「よろしく」ってどういう意味だ? まさか、それは、まさか――  顔を枕に押し付けて、良からぬ妄想を大爆発させ始めた脳内を沈めようとする。  片想いを七年。拗れて捻くれて、挙句ぐちゃぐちゃに絡まった恋心は、唐突にやってきた想い人に簡単に解かれてしまった。あの時からずっと春を待っていた蕾が、今ようやく花開いたのだ。きっと、美しい花ではないだろうけれど。それでも、いつか美しい赤い実をつける日が来ることを願う。  落ち着いた俺はようやく「了解」とだけメッセージを送った。何が了解なんだか分からないが。まあ何にせよ全部、「了解」なのだ。
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