再会

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「森繁君早かったね。十時からで良かったのに」 「いえ、仕事のこと少しでも勉強しておきたくて」  心臓が破裂しそうなほど高鳴り、いっそこのまま止まってしまえばいいのにと願うくらいだ。ようやく塞がりかけていた傷口を抉られて、こんなに胸を締め付けられ、息ができないくらい苦しいなら。  また、あの日を思い出してしまうなら。 目が合った。そして驚いたように目を見張った後、笑みを浮かべる。 「お前……慧、だろ?」  以前と少しも変わらない無邪気な笑顔に、一瞬息を止められ、涙が滲んだ。が、次の瞬間には俺は全速力で奥の部屋に駆け込んでいた。閉めたドアの向こうから、雪菜の慌てた声がする。  七年も前だ。生まれた子が小学校に上がるくらいの月日が流れているのだ。七年も、七年も経った、経ったのに。どうしてまだあの時から少しも先に進めていないのだろう。  目を合わせなければ、顔を見なければ、まるで一ミリも知らない他人のように対応できるかもしれない。……いや、そうしなければ。今日という日を過ごしてはいけない。  仕事だ、これは。何が何でも、プロフェッショナルとしてやり通すのだ。お客様には何の関わりもないのだから。例え、かつて俺が恋焦がれた末死んでしまいそうなほど憧れた友人が、突然目の前に現れたからといって。  強い決意と共に勢いよく扉を開くと、目の前に立っていた雪菜が飛び退いた。その向こうに呆気に取られている店長と新人店員がさっきと同じ位置で固まっている。 「新人の森繁茂雄、お前を今日からシゲと呼ぶ!」 「……お、おう、どうした慧――」 「俺は先輩だ、敬語使え! だから俺は慧『さん』だし、雪菜は雪菜『さん』! 分かったらさっさと準備しろ、控え室はそこでロッカーは空いてるところ使ってくれて良いから」  一気に捲し立てると、店内は一瞬で静まり返る。そして俺の方はというと、全くちらりとも森繁茂雄の顔を見ることはできなかった。ただ、視線を向けられていることだけは理解できる。 「……分かりました。準備してきます、慧さん」  と、駆け足で俺の横を通り過ぎる。自分でさん付けで呼べと言っておきながら、まるで知りもしない他人に向けたかのような言い方に胸がちくりと痛んだ。しかし、これが最良だったのだから、仕様がない。  
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