再会

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 竹田さんにシャンプー台へ移動して貰う時に、客が慌てて店に駆け込んできた。店長が担当する新規客のようで、道に迷って遅れたことを謝っている。服装は特にお洒落に気を遣っているタイプではない、若い女の子だ。目の端でシゲが雪菜に何か教わっているのが分かったが、素早く意識を客に戻す。  シャンプーした後にベースカット、前処理剤とパーマ液の一剤を塗る。その間中竹田さんは大学生活と例の気になる後輩の話をし続けた。俳優の坂口に似たイケメンで男子校出身だから女の子に免疫が無く、話し掛けると顔を赤らめるのが可愛いのだとか。竹田さんの方は大学に入ってからすぐに彼氏と別れてしまったから、今年こそはと大学二年の春に賭けているらしい。純粋に恋愛をしている彼女が微笑ましく、どうにか成就して欲しいと思う。  パーマ剤を塗っている間に、雪菜がシゲに教えながらデジタルパーマ機の準備していた。できるだけ意識の外にやろうと竹田さんと話し込んでいたので、顔を見ることもなく助かった。  ロッドに髪を巻き付け、機械と一つずつコードで繋いでいく。温度を設定し、十分に壁に引っ掛けてあるタイマーをセットした。ふうと一息吐いたところで、横から見慣れない姿が割って入ってきたのでびくっと肩を震わせる。 「コーヒーと紅茶と烏龍茶、オレンジジュースのどれになさいますか」  きた、と出来るだけ悟られないぐらいの小走りで後ろで控えている雪菜に近づく。 「あれ、俺に近づけるなよ……!」 「は? 意味わかんないんですけど。知り合いなんですか?」 「知り合いというか……まあ……」  歯切れの悪い俺に明らかに苛立っている様子の雪菜は、「そんなの知りませんよ」と一瞥すると店長のカット客が帰った後の床を箒で掃除し始めた。 「アイスティーって、冷蔵庫です?」  気付くと目の前にシゲが立っていた。口から心臓が飛び出すかと思うくらいに驚いて、顔を背けながら「控え室」とだけ声を発することができた。  深呼吸を繰り返し気を落ち着かせようとしていると、カウンターに居た店長が何やら不穏な空気を感付いたらしく、半笑いでやってくる。 「もしかして……過去に何かあった系の、あれですかな」 「……いや、まあ……そんな感じのあれです」  隠し通すのは最早無理だ。だったら、本人のいないところで一回店長と雪菜には話しておいた方がいいのかもしれない。
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