憧憬

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 「わぁ、雫先輩が起きてる。珍しい」  フレンチトーストを作っていたら、後輩が芸術的な髪型をして起きてきた。ただでさえ癖っ毛な後輩は、そこに寝癖が加わると前衛アートのような髪型になると常々嘆いている。もっとも、朝に弱い私が彼の芸術的な髪型を見ることなんて滅多に無かったのだけれど。 「おはよう後輩。その髪型、流行の最先端?」 「おはようございます。この髪型は、おそらく百年後に流行ると思われます」  嘯きながらお風呂場へ行く後輩の背中を見送って、フライパンでバターを溶かす。  《百年後》。百年後の未来は、どんな世界になっているのだろう。なんとなく、机の引き出しから出て来がちなネコ型ロボットを連想する。  バターが溶け切ったので、パンを入れて蓋をする。五分蒸し焼きにする間、タイマーを掛けて隅の椅子で本を読む。星新一の、『ようこそ地球さん』。星新一は、父の影響で好きになった。SFと、武者小路実篤が好きだった父。父のくれる温室のような暮らしを捨てて、後輩と暮らし始めて一年経った。
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