憧憬

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   ちょうど一話読み終えたところでタイマーが鳴る。《STOP》ボタンを押してから、パンをそっと裏返す。 「雫先輩、お上手です」  いつの間にか隣に来ていた後輩が、小さく拍手をしてくれる。 「ありがと後輩」  料理上手な後輩に褒められて嬉しくなる。  早く起きたからなんとなく作ってみたものの、私は料理が好きなわけでも得意なわけでもない。普段の食事だって後輩任せだ。 「なんか、照れます」 「どうして後輩が照れるの」  ふたたび蓋をしてタイマーを掛けてから、後輩の方を向く。 「なんか、新婚夫婦の朝みたいで」  照れ笑いをしながら、後輩は言う。 「……Maybe」  返す言葉が思いつかなかった。確かに、この場面だけを切り取ってみれば、そう見えるかもしれないけれど。  正体の掴めない違和感。ほんの微量だけれど、でも無視しきれない違和感。  キッチンは、穏やかな休日の朝に相応しい、香ばしい匂いに満ちている。  
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