憧憬

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   「フレンチトーストとは、『食パンを鶏卵と牛乳をまぜ合わせたものに浸し、表面をバターで焼いたもの』──だそうです」  大辞泉を開いて、後輩が言う。 「なるほど。百年後だったら鶏卵が烏骨鶏の卵になってたりするのかしら」  乏しい想像力を駆使して考える。 「んー、それなら現代にもありそうです。百年後なら、もっと別の卵──そう、恐竜の卵とか使われてるんじゃないですか?」  辞書を閉じて後輩が言う。恐竜の卵。 「恐竜の卵って、百年後っていうより二億五千万年くらい時間逆戻りしてない? ちょっと食べてみたいけど」  なんとなく二億五千万年と言ったけれど、恐竜がいた時代はうろ覚えだ。恐竜がいたのは、途方もない昔。後輩と《百年後のフレンチトースト》について語る《今》も、いつか途方もない昔になるのだろうか。 「そこはタイムマシンを頼りましょう。あるいは恐竜の復活を」 「タイムマシンかぁ。なんかさ、私タイムマシンって聞くと親殺しのパラドックス思い浮かべちゃう」 「雫先輩らしいや」  ふふ、と笑い、後輩はキッチンに行ってしまう。蛇口を捻る音で、彼が洗い物を始めたのだと知る。  
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