17人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
交際をしていない男女が、一緒に暮らすのはおかしいのだろうか。
ベッドサイドに掛けて考える。
私と後輩は、上手く同棲できていると思う。お互いに、不必要な干渉はしないから。
「わぁ珍しい。雫先輩が気難しい顔してる」
いつの間にか洗い物を終えた後輩が、珍しく私の隣に座りながら言う。
「なんで世間の人たちは、私と後輩が一緒に暮らすのを不純だって言うのかなって」
「今日の雫先輩、なんだか不思議です。いつも不思議といえば不思議ですけど、なんていうか別のベクトルで不思議です」
何度も《不思議》と繰り返す後輩。でも、多分押し入れからネコ型ロボットが出てくるよりは不思議じゃない。
「私が世間の目を気にするの、そんなに不思議?」
「なんか、雫先輩らしくないです。いつもなら、世間なんて気にせずに我が道をゆくのに」
そう、私は我が道をゆく。誰に何を言われようと。でも、たまには世間の言葉に傷付くことだってある。
「男の人と暮らしてるってだけで私をふしだらだって言う社会、私嫌い。何が悪いのって思う」
後輩は少し意外そうな顔をしてから、
「百年後には、そんなこと言われない社会になってるといいですね」
と笑う。百年後の人類だって、この笑顔の美しさを愛するだろう。
「そうね、それからフレンチトーストも美味しくなってるといいわね」
「でも雫先輩の作るフレンチトーストは、あの味のまま変わらないでほしいです。もちろん、雫先輩にも」
「後輩もね」
ベッドサイドに、やわらかな陽光が差す。百年後の未来に思いを馳せて、私は薄い瞼を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!