喫茶店「レッドアイ」

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喫茶店「レッドアイ」

とにかく暑い昼さがりだった。 いつもならビジネスマンで賑わうこの街も休みともなると、とたんに人が消える。 数少ない住人の歩く人影すら今日は見当たらない。 そんなビジネス街をあるく一人の男。 頭には大きなヘッドホンを掛けている。 耳障りな音を漏らして我が物顔で練り歩く。 ジャズなのかポップなのか・・・ 音にあわせてリズムを取る頭と手首がやけに小刻みに動く。 男は踊りながらビジネス街を曲がり一歩中に入った。 少し歩くと左に曲がる。 道の先には建前と本音が見事にわかるような昔の古びた商店街が広がっていた。 空いているのかわからないラーメン店。 いつでもシャッターが閉まっている八百屋。 埃に埋もれたジャッキが見える修理工場(こうば)。 閉まっているシャッターもどのくらい空けてないのだろう。 サビがひどくて、さらに寂しさを増す。 まさにシャッター通りに相応しい。 男はズボンの前ポケットから年季の入ったZIPPOを取り出した。 ミュージックのリズムに合わせカチカチと鳴らす。 男は反対側のポケットからタバコを取りだし口にくわえた。 ZIPPOをくるりと手のひらで回すとタバコに火をつけ大きく吸い込む。 タバコの先の灰がみるみる長くなっていく。 一瞬身体を止めると手を広げ吸った分の煙を空に向かって吐いた。 また動き出す体。 大通りに聞こえる車の飛ばす音はここでは鳥の鳴き声しか聞こえない・・・。 それでもお構いなしにジャカジャカとなるヘッドホンからのノイズが空しく響く。 この通りの中ほどに一つの看板があった。 男はその看板を見つけると、そこへ向かって また動き出した。 看板の名前は「喫茶店 レッドアイ」。 だが曲が終わらないことで 男はタイミングを計りその看板の前で回っていた。 カラスがどこからともなく向かいの電柱にとまりうるさくカアカアと鳴いている。 短くなったタバコを男は吐き捨てた。 それを見たカラスが飛び立った。 捨てられたタバコは残りの葉を燻らせていた。 男の曲の終わるタイミングと同時に 男は店の玄関を勢い良く開けた。 カランカラン。
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