男の正体

1/1
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

男の正体

「で、写真はもってきただろうな」 男は新しいタバコに火をつけた。 「はい」 メガネは嫁が男と写っている写真をバッグから取り出し男に渡す。 「素人にしてはよく撮れてるな」 「ありがとうございます。写真は趣味ですが、ばれないように撮影はかなり苦労しました」 男に腕を褒められメガネはすこし嬉しくなった。だが男はすぐクククと笑った。 「お前、よくこんなブスと結婚したな」 メガネは一転だまりこんだ。 「お前の腕の良さでブスがはっきりとわかる」 「ブスブスって言わないでください」 「まあそんなことはどうでもいい。ターゲットの男はこいつか。こいつも不細工だな。お前の顔も可もなく不可もなくだけど、浮気するならもっといい顔選べよ、なあ?」 「顔は関係ないです、浮気だけで犯罪です」 メガネはすこしムスッとした。男はくわえタバコに左手で写真、右の人差し指でテーブルをトントンと叩いている。 「・・・で殺る方法だがな、こんなんはどうだ。二人がホテルから出て別れたあと男を夜道で拉致してどこかの港の倉庫でじっくり殺る。男がお前に向かって涙を流して嘆願する"私は取り返しのつかないことをしてしまいました。大変申し訳御座いません。どうか助けてください。どうかおねがいします"とね。それを聞きながら両腕両足の骨をミシミシとゆっくり折っていく。ヤツは声にならない悲鳴をあげる。俺がやるのはそこまでだ。あとはお前に最後をやらせてやる。気持ち良いぞ。命乞いしている奴が見せる泣きっ面とそれを聞きながら命を削っていく瞬間はよ。」 男はニヤニヤしながら指でナイフを作り、喉を切り裂く真似をする。 メガネは聞いていて気分が悪くなりハンカチで口を押さえた。 「おいおい、こんなことぐらいで吐くな」 男は嫌そうな顔をメガネに向けタバコを灰皿にもみ消した。 「相手を殺すんですか・・・?」 メガネは口を押さえながら聞く。 「何言ってやがる。嫁を殺さずに後悔させるっていうのがお前の願望なんだろ?」 「いや、でも殺すなんて・・・あなた探偵ですよね?」 「いや、殺し屋だ」 「え・・・」 メガネは亜然とした。闇のサイトでやりとりしたときは探偵と名乗っていたのに・・・。 「お前の嫁は”自分と会ったばっかりにあの人は殺されてしまった、しかもこんなに残虐で悲惨に”ってよ。一生後悔するな」 男のニヤついた顔を見てメガネは全身に汗をびっしょりかきはじめた。 あいが水を持ってきた。先ほどよりはマシになった引きつった笑顔で。男は時計を見た。 「時間通りで来たな。やればできるんだな」 と皮肉っぽくいうとあいの表情を無視して注文する。 「あとコイツにも水をくれよ」 あいは「はい」とだけ答えカウンターへ戻り、メガネの水を持ってきた。 あいがカウンターに戻ったのを確認するとメガネがひとつ深呼吸をして男に聞いてきた。 「・・・私もそこにいなきゃいけないですか?」 「なんで?」 「・・・いえ、想像したら見ていられないような気がして。あとアリバイもないと」 「別に嫌なら居なくてもいいけどな」 男は足組みして両手を頭に回した。 「・・・あと、すみません、こんなこと・・・プロに言うことでは無いと思いますが」 「ん?なんだよ」 「あっ、あの・・・そのやり方だと警察にすぐ・・・」 「は?」 「い、いえなんでもないです。」 男の反応にメガネは水を一気に飲み干す。 男は少し考えるとニヤッと笑った。 「そうだな、そのやり方だと警察は普通の殺人事件で扱うな。確かに面白くないな。そしたら耳と唇と指、cockも切り取るか。でな、手に釘をさして十字架を背負わせる。そのそばに謎のワードを残しておけば完全に猟奇殺人。ククク、それがいいな。面白い。ニュースで大々的にとりあげられるぞ。姉ちゃんもう一杯水くれ」 メガネは、とんでもない男に依頼してしまったことを後悔した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!