さよなら、スピカ

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「五年前の日曜日(あの日)、すごいスコールだったんだよ」 浦沢は再び窓の外へと顔を向け、俺は組んだ手にぐっと力を込めた。 「月森は雨の中、自転車で学校に向かってたらしくてさ……夜だったし視界も悪くて……まぁ、相手の前方不注意ってやつだよな」 一瞬で視界が歪んで、込み上がってきた苦しさが手の隙間に溢れ落ちた。 呼吸をするのがやっとで、それに気づいた浦沢が俺の背中を撫でる。 「星野のせいじゃないよ」 浦沢の言葉の意味が嫌になるほど理解できて、それでも二度と忘れてしまわないように。 鮮明になるあの日の記憶を、心に刻み込むように震える声を絞り出した。 「俺っ……あの日、雨だから中止だなって……電話しようと思ってたのに……っ」 俺が約束をしなければ。 「どうせあいつも行かないだろうって……勝手に思い込んでて……っ……」 友達にならなければ。 あの日学校に行けていれば。 沢山の後悔が、少しずつあの日々を、真っ黒の闇でぐちゃぐちゃに塗りつぶしていた。 大好きだった星も、嬉しかったスピカという渾名も、大嫌いになる事で償ったつもりでいたんだろうか。 お互いに付けた、名前ひとつあれば。 その中に込めた願いなんて口にしなくても分かってた。 俺の中の一番はお前で、お前の中の一番は俺で。 だから見失う事のない、一等星の名前にしたんだよ。 「ほら、着いたぞ。月森が好きそうな名前だろ?」 浦沢の声に顔を上げる。タクシーを降りた先に広がっていたのは、見晴らしの良い高台に整備された、空中庭園のような場所だった。 テラコッタ調の敷石や彩り豊かな花々が、プロムナードを模した通路を美しく彩っていて。まるでここが楽園でもあるかのように、そんな錯覚すら覚えた。 ──メモリアルパーク星見ヶ丘 だからその看板を見て、やっぱりなって笑うしかなかった。 最初からハナイは俺にメッセージを送っていたんだ。 〝クボイ ハナイ〟 〝ボクハ イナイ〟 簡単過ぎるアナグラム。悪戯好きのお前がしそうな事だった。 忘れてしまった俺の記憶を取り戻しに。 そして、 あの日叶わなかった約束を、五年越しに叶えに来てくれたんだよな? ハナイ───いや……カペラ。
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