さよなら、スピカ

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───── 昨夜と同じ時刻。 門扉にもたれて空を見上げる。昨日と変わらない金色の月を、今夜は沢山の人が見上げているのだろうか。 8月16日。 死者の魂が帰る日だと聴いた事がある。 ハナイがカペラだとしたら、会えるのは今日が最後か。 背後から鍵のジャラジャラとした音が聴こえて、俺は待ちきれずに振り返った。 「よっ、時間通りだな、ハナイ」 「お待たせ、行こっか!」 昨日と同じ弾むような声。ハナイが門扉を開き、足を進めた俺は中で待つハナイの肩を叩いた。 「なぁ、ハナイ、」 手は触れられる。体は俺と同じくらい成長している。もしかしたら、誰かがカペラの振りをしているのか? そう思って見据えたハナイの顔は、間違いなく記憶の中のカペラそのまま。 そして月明かりに照らされた、ハナイの足元にあるはずの影は無かった。 「何?」 「俺のさ、名前だけど……」 「あ、そうだった。まだ聴いてないね」 「スピカ……って呼んで欲しい」 もしこれが最後の日なら。 せめてあの頃のまま、約束を果たしたいから。 ハナイは一瞬面食らった顔をして、すぐにニカッと微笑んだ。 「もちろんだよ、スピカ!」
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