さよなら、スピカ

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目覚ましが鳴るより先に目覚めたのは、何年ぶりだろうか。 薄眼を開けると陽はまだ昇る前で、部屋の中は仄暗かった。 手を伸ばし、ベッド脇の棚に置いたリモコンを取る。テレビの電源を入れると、部屋の隅が煌々とした明るさに包まれる。 『今夜は5年ぶりの皆既月食です』 月のパネルを抱えた女性キャスターが、しっとりとした声で告げた。 「皆既月食……」 こめかみがまたキンと痛む。 ──今度の日曜、皆既月食だって! ──赤い月だろ? ──そうそう! スピカも行くよね? ──当たり前だろ。じゃあさ、学校の屋上にテント張って天体観測しようぜ 聴こえてきたのは、随分幼いけれど紛れも無く自分の声。 そしてもう一人の声は、 やっぱり、ハナイだった。
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