プロテスト

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「明日ついにプロテストだね」  普段と何の変わりもない練習メニューを淡々とこなしていた。ジム生からわざとプレッシャーを掛けるような激励をされても、「余裕だ」と拳を突き出してみせた。  駅前のいつものロータリーが見えてきたところで、突然薙沢が僕の腕を掴んで人通りの少ない脇道に入った。と、壁に押さえつけられるような感じで強引に口づけられる。あの日から、僕がキスしたいとねだらなければ一度だってしてくれなかったのに、どうして今……。  わずかに紅潮した薙沢の顔は、夕日に照らされていっそう赤く見える。彼の真剣な眼差しに心臓を貫かれて息もできない。いつもなら異常なほどの性衝動に駆られて薙沢に引かれるところだが、それさえも引っ込んでしまっている。 「明日、テスト合格したら……お前の家に行く」 「え……」  薙沢とキスする度に欲情して、セックスアピールをしていたが、全部拒絶されてきたし、挙句「そういうこと言うならもうしない」と言われて最近はキスさえもお預けを喰らっていた。薙沢は僕と違って性欲があまりないのだろうと独り寂しく自分を慰めてばかりの日々である。  しかし、今薙沢の口から出た言葉に、僕は期待せずにはいられなかった。僕から離れ顔を背ける。仏頂面で耳まで赤く染めた薙沢の横顔に止まった心臓が高鳴り出すのを感じた。 「前に言ってただろ。お前、夜は一人だって」 「そう、だけど……あの、それって……」  思考が求めていた答えに行き着いて、噴出しそうになった衝動を抑えながら、薙沢の服の袖を掴む。 「……約束だぞ」  横目に僕を見詰める薙沢は、僅かに表情を固くしていた。僕はただ、彼の目を覗き込みながら、頷いた。
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