プロテスト

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「僕は、約束が……あるので……その、すみません」 「いや、良いんだ。残念だけど」  本当は出たいけれど、薙沢が合格祝いをしている間、僕は家でやることがある。しっかり準備をして、万全の態勢で薙沢を迎え入れたい。昨日の帰りにアダルトショップで道具は揃えたし、あとは合格発表を待つだけだ。 「おーい」  と、遠くから会長の声がして、顔を上げると関係者口の方から会長とマネージャーが廊下を歩いてくる。その後ろには、汗もほとんど掻いていない薙沢の姿が見えた。 「会長、マネージャーお疲れ様です。薙沢もお疲れ」  東代さんがにこやかに笑い声を掛ける。心臓が破裂しそうだった。まだ闘争心を燻らせたままのぎらついた薙沢の目が僕を捉えたから。 「こいつ、開始に軽くワンツーとジャブ見せたかと思ったら、ヘッドギアの上からぶん殴って一発KOさせやがった」 「一応点数つけれるように基本は見せたんだからいいだろ」  会長に肘で小突かれ、不満そうに眉間に皺を寄せながら言う。 「ね、言ったでしょ。心配なのは相手だって」  苦笑しながら東代さんに肩をぽんと叩かれ、僕はびくと肩を震わせた。ダメだ、今は。 「もうすぐ発表されるみたいですよ。受験者今日少なかったですから」  中年の中肉中背の、少し地味な顔のマネージャーがジムから持ってきたグローブなどの荷物と受験票を手に言う。  そうしているうちにA4用紙一枚を持って、男性が早足気味に歩いてくる。そして番号の書かれた紙を壁に貼り付けて少し離れたところに下がった。 「あっ、ありますね。薙沢の」  マネージャーと会長が受験票と見比べて、頷き合うのを見て、喜びと同時にこれからのことを思い、新しい緊張感が襲い掛かってくる。 「やったな、薙沢」 「これで俺も準兄と同じ土俵って訳だ」  そう言って拳をぶつけ合う二人を呆然と眺めていると、合格者へのアナウンスがあり、会長と薙沢はプロライセンスの発行手続きに向かうようだった。
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