性癖

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 暴力を振るわれたかった。痛めつけられたかった。これでもかというほど凌辱されたかった。その想いは年月を重ねるほど肥大化し、思春期に突入して如何ともし難いものになっていった。  しかし、普通に生活していたらそうそう殴られるわけもない。実際中学時代は健全なクラスメイトに恵まれたお陰でいじめもなかったのだ。  他人に殴られるためには、殴られる理由が必要だった。喧嘩を自分から売るのは頭が悪いし、いざという時には正当防衛を盾に自分を守れる方がいい。  そこで僕は街を歩きながら殴り合いの喧嘩している人達の風貌に着目した。見た目が奇抜だったり目つきが悪いとか、歩き方が偉そうだったりすると、それが同じような相手の燗に障るようで、よく喧嘩を売ったり売られたりしていることがわかった。  だから、僕は見た目から入ることにした。髪の色は真っ白に脱色し――最初はグレーっぽくなったが、繰り返しているとついには白になった――、耳には穴が空けられるだけのピアスを付け、手には髑髏や蛇のシルバーリング、学生服のズボンにはじゃらじゃらと鎖を下げた。そして、街を歩く時は大股開きに、歩く人を睨み付けながら歩いた。  身長は普通、体型は若干痩せ気味、黒髪でどう見ても普通だった僕は、高校進学をきっかけに変わった。いわゆる高校デビューを果たしたのだ。まるっきり別人のように変わってしまった息子を見るたびに母さんは卒倒しかけたが、入学式の頃にはすっかり諦めがついたようで、好きなようにしなさいと溜め息混じりに言ってくれた。
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