百官の王

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 18年の歳月が経った。歳を重ねるごとに官位を上げ、官職を賜ってきた顕家(あきいえ)は21歳。冬の伊勢の地へ踏み入れた。約1年ぶりとなる父との再会を求めて。 「父上。ただいま戻りました」  父は出迎えるどころか、屋敷から出てこようともしなかった。家臣は面を上げず、歓迎の装いはない。「こちらへ」とだけ促されて侍女の後を追う。その侍女が立ち止まった。閉ざされた襖(ふすま)に視線を送る。  どうやらここが目的地。声に出せばいいもを。そう思う顕家は、初めて侍女の顔を見止めた。切れ長で一重の瞼である。どこか見覚えのある顔。父に似ている。いや、顕家自身によく似ている。この娘は妹であった。  大きくなった姿を驚きつつ、顕家の前に現れたのは父にも母にも内密なのだと悟る。顕家が静かに微笑むと、妹は途端に感極まった目頭を押さえて立ち去った。  残された顕家が襖を開けると、ねぎらいの言葉よりも先に人払いを求めた父。仁王像のような面持ちで立つその眼差しは、顕家を咎めていた。 「なに故、伊勢へ参った。なに故、越前へと北上せなんだ」  すでに北条が支配する鎌倉幕府は滅び、足利尊氏(あしかが たかうじ)による新たな幕府が開かれようとしていた新時代。顕家が忠義を誓った後醍醐天皇(ごだいご)は、都を追われて霊峰連なる吉野の山奥へ落ち延びていた。  顕家の使命は都を奪還し、後醍醐天皇を上洛させること。陸奥守(むつのかみ)に任ぜられ、遠い東北の地から挙兵してから7か月。度重なる戦に勝ち続け、間もなく都へ迫る勢いであった。それが伊勢へ下ったのであった。
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