第4章

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第4章

しばらくハルナを一瞥しては、薄ら笑いを浮かべたり、蔑んだりする人たちが通り過ぎるだけで、誰も立ち止まってくれません。 ハルナのお腹が鳴りました。 今日はまだ何も食べていません。 お気に入りの小さく古ぼけた(あお)いサイフに、もういくらもお金は残っていません。 このまま1人も客が立ち止まってくれなければ、駅の洗面所で水を飲むだけでしょう。 そんな思いがよぎった時、1人の背の低い女性が立ち止まりました。 じっとハルナを見つめます。 ハルナは、びっくりしました。 その女性が、とても変わった顔をしていたからです。 黒人のように縮れた短い髪に極端に大きなひたい、肌は()げ茶色でとても日本人には見えません。 背も子供の身長ぐらいしかありません。 しかしその大きなひたいに埋もれるようなしかし大きな瞳は、とても澄んだ目をしていました。 ハルナは、また焦ってしまいます。 い、いらっしゃいませ 似顔絵を描いています よかったら1枚どうですか? ……… 異様な容姿の女性は、微笑んだはずです。 あまりに巨大なひたいは、表情さえかき消します。 は、は、はい ぜ、ぜ、ぜひ お、お、お願いします こ、こ、こんな私でよければ ……… どうやら、この異様な容姿の女性はひどい(ども)りのようです。 しかしハルナは、満面の笑みを浮かべました。 はい ありがとうございます ほんとうにありがとうございます ……… 思わず上ずった声で、簡易なイスを置きました。 女性は(うなず)くとゆっくりとイスに腰掛けて、ハルナに微笑んだはずです。 は、は、はい と、と、とても え、え、えがおじょうずですね ……… ハルナは、改めて女性の顔を見つめました。 やはり黒人のように縮れた短い髪に、極端に大きなひたい、そして焦げ茶色の肌… 一瞬、ハルナは迷いました。 このままの姿を描いていいものかと ……… しかしハルナは、すぐに見たままの姿を描くことに決めました。 真実こそが1番美しいからです。 ……… ハ、ハ、ハーモニカ ふ、ふ、ふいてもらえるのですか? ……… 異様な容姿の女性は、おそるおそる質問します。 はい さようでございます サービスとして とても美しい曲を、吹かせていただきます ……… ハルナは、ふたたび満面の笑みで応えます。 アーケードの天窓から、最後の夕陽の赤い筋が二人を照らします。
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