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第1章
まだ16歳の少女ハルナの自慢は、生まれつきのクリーム色の長い髪です。
胸まである細く美しいクリーム色の髪…
時々、白い花形のヘアリボンを飾ります。
すると、どこかの上級家庭のお嬢様のような気品が生まれます。
誰もハルナが、家もない孤児だとは思いませ
ん。
鼻筋が通った卵型の輪郭に、長い睫毛の少し大きめの透き通った碧い瞳…
アゲハ蝶が人に姿を変えたなら、こんな美しい顔立ちになるでしょう。
しかしハルナには、生まれつきひたいの真ん中にクローバー模様のアザがありました。
それは、痛々しくハルナの生い立ちを物語ってもいるようです。
今日も、ミモレ丈の少しふんわりした白いスカートにデニムのGジャンです。
とても洗練されたセンス…
しかしいつもの服装というより、ハルナはこの服しか持っていません。
もっとオシャレをしたいと思いますが、買うお金もありません。
ハルナの寝床は、仙台駅西口前の青葉通りに面した昨年閉店した老舗百貨店さくら野の西口玄関です。
ちょうど玄関と連動して仙台市地下鉄駅へと通じる入り口があるため、百貨店の自動ドアは建物のいくぶん奥にあります。
そのため雨を凌げるスペースが生まれ、ハルナはここを寝床にしていました。
ピンク色とオレンジ色の傘を広げて衝立として、鮮やかなグリーンの寝袋に潜り寝ています。
それはまるでアゲハ蝶の蛹のようです。
朝、ハルナが寝袋から姿をあらわすのは、まるで朝陽を浴びながら羽化するアゲハ蝶のような美しさです。
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