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「でも、どこに行くの?」
冬の寒空の下、僕らはぶらぶらと通りを歩く。こつこつ、ぱすぱすと2人分の足音が鳴る。彼の家は駅に近く、すぐ繁華街に出れる。いくらでも見るものはあるし……適当にぶらつくだけでも面白いと思いますよー、と言ったら、彼はそれもそうだね、星河君らしいなぁ、と笑った。
「じゃあお散歩しようか。あ、でもごめんね。せっかくのオフで、僕の家まで来てもらったのに、何もできなくて」
うん、そうだ。オフなのに何もやることがなくって、結局いつもみたいに伊脇さんに会いに行ったら、あの様子で煮詰まってたのだ。元々遅筆な人だし、今回は本当に深刻そうだけど、まぁ何とかなると信じよう。僕らはずっとそれでやってきたのだし。
「いいんですよ。僕が会いたくなっちゃっただけなので。それに仕事抱えてるの忘れてたのに、家まで押しかけちゃったし……ごめんなさい」
「あぁ、いやいいんだよ。あのままでも何も出てこないし、君が来てくれてよかったよ。本当何にも出てこない……スランプかなぁ」
「まぁクリエイターにスランプはつきものですから。そういう時はスパッとやめて、違うことしたり、外に出るのが一番ですよ!」
「本当星河君はいつも元気だねー」
優しい笑みのまま伊脇さんは、そのまま前を向いた。
「………やっぱり僕の音には君が似合うね」
ほろほろと綻ぶ彼の顔。僕もつられて微笑む。冬の澄んだ空気と優しい青空。残念ながら雪は一切降ってないけど、もし降っていたら僕はその音を聞くことが出来ただろう。雪がキラキラ光る。その音が正しく伊脇さんの作る音だ。あのキラキラした星みたいな綺麗な音。僕がずっと大好きなその音。僕の音に一番合う声が君なんだよ。そう言ってくれた伊脇さんの顔が、キラキラと輝いていたのは今も覚えている。
「ありがとうございます。僕も伊脇さんが作る音、大好きです」
そう言われた伊脇さんは、寒さで赤く染まった顔を更に赤くして、マフラーに顔をうずめてしまった。……本当、曲と同じで可愛い人だよなぁ。僕がふふふ、と声を押し殺していると、マフラーの上に困り眉が浮かぶ。
「本当、星河君ってストレートというか、素直だよね……」
「思いはストレートに伝えた方がいいですからね! わかりやすいですもん」
「それもそうだけどさ……まぁいっか」
「けど、流石に、寒いですね……」
「2月だもんね。せっかくだしどこかカフェでも入ろうか。温かいお茶が飲みたくなってきちゃった」
「いいですねー。瀬尾さんのとこにでも行きます?」
「あ、いいね。ちょっと遠いけど、時間大丈夫?」
「明日は仕事ですけど、朝早くはないですし、大丈夫ですよ。夜には帰りますし」
「じゃあそうしようか」
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