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Beat the Slump, Keep the Sound
ラミ、ソラミ、ラミ、ソラソミ……
音が聞こえては途切れ、流れては消えていく。
さっきからずっとこんな調子だ。……伊脇さん、相当煮詰まっているなぁ。少し溜息をついて、ドアを開ける。すると目の前には、ぷしゅー、と頭から煙を上げていそうな勢いでピアノに突っ伏す伊脇さんの姿が。あちゃー、こりゃ厳しい。果たして締め切りに間に合うのかな?
「伊脇さーん」
そんな彼の背中を突っつく。ぽろぽろというピアノの単音が零れ落ちたかと思うと、ぐぐっと首が動いて彼が僕を見た。その目は焦点を結ばず、虚空に彷徨っている。あー、これはやばいぞー。
「ほしかわくんー……だめ。なんにもでてこないよー。たすけてぇ……」
泣きそうな声と目。ぎゅっと僕の腕が掴まれる。
「いやー今日はダメなんじゃないですかね。締め切りはいつなんです?」
そう言われると、彼は僕の目をじっと見た後、前の方を向き、再びピアノに顔を伏せた。……うわぁ。沈黙を掻き消す切ないドレミ。
「大丈夫、なんですか……?」
「………」
うーん。雲行きがやばい。……こうなったら。
「よし、ちょっと出かけましょう」
「え?」
外に出るのが一番! 幸いまだ3時だし、どこかお店とか開いてるでしょ。ピアノから伊脇さんを引きはがす。
「うわ、ちょっと、星河君」
「いいから、行きましょうー!」
手をぎゅーっと握って、ね? と笑いかければ伊脇さんは、仕方ないなぁ、じゃあ行こうかと、ピアノの蓋を閉め、ちょっと呆れつつも頷いてくれた。
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