第4章 終わりと始まり

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「何かあったら呼ぶよ」 「承知致しました。私は朝食を取って参ります」  インクと紙の匂いが充満した部屋に一人残される。背後の窓の方を振り返った瞬間、ふとあの横顔が思い浮かんですぐに机の上のカーロ国王からの手紙に目を落とした。熟考し、丁寧な字を心掛けて紙に返事を書く。勿論答えは「喜んで参加致します」だが、それを公式文書に落とし込むのは少し――いや、かなり頭を使うものだ。  一つ本日の大仕事を片付け、次の資料に目を通していると、食事を済ませたイェルクと共に大臣のヤーコブが執務室を尋ねた。  先程書いた返信を二人に読んでもらい、同意を得たので、封筒に赤い蝋燭を垂らし、王家の紋章の入った印を押して封をした。イェルクに使者を遣わせるよう手紙を手渡す。 「式典はカーロで催されるのですよね。アレクシルで行う方が、立地を考えた場合ミヒャーレ国王の負担が減って良いと思うのですが」  カーロ国王の文書に一度目を通したはずだが、もう一度手に取ってヤーコブが訝しげな表情で読んでいる。 「それは考えなくもないけれど、カーロ国王は保守派だから、自国を離れることを恐れているのかも。カーロの王族のことはよく知らないけれど、もしかしたら留守の間にクーデターが起こることを危惧しているのかもね」  カーロの王はまだ若い。隙を狙う敵がまだいると考えているかもしれない。ミヒャーレ国王に関しては、国民からの信頼は厚く、王となる権利を有する者の定義と各貴族の権限について初代国王ミヒャエルが事細かく定めたこともあり、クーデターの恐れがない。カーロ国王は国を空けることができないこともあるが、式典を国内で行うことで、この三国の結束を国民にアピールし、国王の威厳を見せたい意向があるのかもしれない。
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