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「ニコデムス様ッ!」
その時、僕の姿を見て木の間からイェルクが飛び出し、アシュレイを引き剥がした。
「お怪我は……!」
彼の姿を見て顔色が蒼くなり、シャツを引っ張って僕の首筋を曝け出した。何も傷が無いのを見て、胸を撫で下ろす。
「異国の化物め! 八つ裂きにしてやるッ!」
そう言って怒りを露わにして立ち上がったイェルクの袖を咄嗟に掴んだ。
「待って! この人を保護する!」
「な……! この者は吸血鬼です! 貴方の血を吸おうと襲い掛かった化物です!」
横たわる彼を指差しながら、困惑した表情で僕を見る。そして、僕の眼を見て彼の瞳の奥にあった怒りが揺らぐ。
「人ではないかもしれない……けど、この者は僕の血を吸っていない。倒れるくらい衰弱し腹を空かせているのなら、僕は彼の姿を見た時点でとっくに襲われ死んでいるはずだ」
「し、しかし――」
更に反論の言葉を繋ごうとした彼の袖を縋るように強く握った。少しの間僕を見詰めて目を閉じた後、一つ聞こえるほど深い溜息を吐いて肩を落とす。
「……本当に貴方という人は……」
そう言って、イェルクは彼の身体を両手に抱えて持ち上げる。
「いいの?」
「一度言い出したら聞いてはくれませんからね……」
歩き出した彼の隣をついて歩く。自分よりも身体が大きい男を運ぶのは一苦労だろうが、イェルクはふらつくこともなくしっかりとした足取りだった。
「使っていない使用人の部屋に寝かせましょう。ただし、最悪の場合を想定して、起きても動けないように拘束はさせてもらいます」
「うん、ありがとう」
笑顔で答えると、彼は僕の方を見てまた溜息を吐いた。そして、「やれやれ」といった困り顔で笑った。
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