第1章 邂逅、そして誕生

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「ニコデムス様、こちらですか」  イェルクの声がしてドアが開く。アシュレイの手が離れる。  心臓が早鐘を鳴らすように脈打っている。彼を見ると、いつもと変わらぬ無表情で次の書類に手を伸ばしていた。動揺しているのは僕だけのようで、何だか恥ずかしくなる。 「戴冠式の際の衣装選びをしたいのです。作っている時間はありませんので、既にあるもので合わせてみたいのですが」  アシュレイの方を見上げるが、視線も向けず無言なのを受けて、「分かった」と持っていた書類の束を置いて、ドアに向かった。 「続きは明日手伝うよ」  そう言い残して部屋を出た。  隣を歩くイェルクが眉間に皺を寄せて顔を覗き込む。 「もしかして、熱がおありになるのでは? 頬の腫れだけではなく、全体的に赤くなっているように見受けられますが……」 「そ、それはないよ! 大丈夫」  どうして赤面しているのか、自分でも分からない。アシュレイと対していると、調子が狂う。  イェルクに連れられて自室に戻ると、沢山の洋服が運ばれてきていて、着替えを手伝うためにメイドが数名集まっていた。 「……イェルク、こんなに沢山の服を見なくても……」  これから起こるであろう惨事を想い、つい言葉が漏れた。イェルクは真剣な表情で用意された服を一つ手に取り、僕にあてがう。 「簡易的とはいえ、戴冠式です。式の後はテラスに出て国民に御姿を披露することになりますし、王として風格のある格好をして頂かなければ」  つい先程「王の風格が無い」と言われたばかりだったのだが。溜息を吐いて、差し出された服に袖を通した。  何回も試着を繰り返し、ようやく服が決まった時には、夜が随分深まった頃だった。兄と近臣たちの処分に関する文書にサインし、戴冠式の段取りを聞いてから、ベッドに横になった。 様々なことが思い起こされ、またこれからのことを考えてなかなか寝付けず、長い間寝返りを打った後、ようやく眠りについた。   王になった夜も、そうして騒がしく過ぎていった。 しかしこの後、大きな事件が起こることを誰も予想してはいなかった。
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