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第2章 集結、それぞれの想い
頬を撫でるような柔らかな風を感じながら目が覚めた。窓を開けた記憶はなかったけど、と思いながら身体を起こすと、枕元に黒い人影が立っていて、驚きのあまり声が出そうになった。
「ア、アシュ……びっくりしたよ……」
仄明るい窓際でカーテンが風で揺らめいている。もしかして、そこから入ってきたのだろうか。部屋に鍵が掛かっていたからだろう。部屋の鍵は僕とイェルクしか持っていない。イェルクに合鍵をアシュレイにも渡すように頼まなければ。
「目覚めはどうだ」
「良いよ。……あんな騒動があったのに、無神経だよね」
心身共に疲れきっていたせいもあるが、兄が国外追放となる日の朝にこれほど晴れやかな気分であるのは、自分でも嫌になる。
「お前の兄を乗せた馬車がもうすぐ門の前に着く」
「え……?」
昨日の話では昼中だということになっていた。日が昇って間もないというのに、僕の知るところにないまま永遠の別れとなるというのか。
「伝えない方がいいというイェルクの判断だ。お前が心を痛めるのを分かっているからだろう」
ベッドから飛び降り寝巻きのままケープを羽織ってドアに駆け寄ろうとして、アシュレイが腕を掴んだ。振り返り、どうしてと問うような眼差しを送る。が、掴まれた腕を引っ張られ、開け放たれた窓のところまで連れて行かれる。
「今から馬を走らせたところで間に合わん」
と、そう言うと膝の裏と背中に腕を回し、ふわりと羽根のように軽々と持ち上げられてしまう。動転する僕を尻目に飛んで窓の縁に上った。
「高いところは平気か」
「う、うん」
真下に見える庭園を見て、アシュレイの服を強く握る。高いところから見る景色は平気だが、落ちるかもしれないと考えると恐ろしかった。
「掴まっていろ」
ばさっと大きな布か何かが広がるような音がアシュレイの背中から聞こえた。その瞬間、アシュレイが何の躊躇もなく窓から飛び降りた。
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