第2章 集結、それぞれの想い

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「兄様、どうか僕を憎んでください。そして……強く生きてください」 「……お前は狡い」  足を止め、振り返ることもなくそう呟いた。彼の身体が微かに震える。 「お前は何でも持っているくせに、私が唯一持っていた王の冠を奪った」  何でも持っているなんて思ったことはなかった。兄を羨ましく思うことはあっても、兄からそんな風に言われるようなものなど何もない。  しかし、幼少から王として生きることを強いられ大人達に囲まれて友と呼べるものもいない兄にとって、城内にしか居られないとは言え、自由に生活する弟が羨ましく思えたのかもしれない。 「私はお前を弟だと思ったことはない。ただの疫病神だ。だから、憎むどころかお前を屠ることだけを考えている」  くるりと踵を返して真っ直ぐに近づいてくる。慌てて兵士が兄の両腕を後ろに引っ張って止めた。 「ニコデムス、今に見ていろ! 絶望を与えてやる! お前が私に跪き、懺悔と命乞いの言葉を泣き叫ぶその時まで、私は地べたを這い蹲り泥に塗れても、生きてみせるッ! 必ず!」  目を見開き醜く顔を歪ませ、口の端を吊り上がらせて叫んだ。目の奥に黒い炎がちろちろと燃え広がり、闇より深い暗黒が鈍い光を放っていた。  兵士に引き摺られて手錠と足枷をされたまま、門の外で待っていた国境まで向かう荷馬車に乗せられる。他に大臣たちの荷馬車も見られるが、共謀を防ぐため、それぞれ別の場所に運ばれることになっている。  地鳴りのような音が頭上から響いて、門扉が降ろされ、僕らの間を隔てた。憎悪を込めて僕を睨めつける兄の姿が、最後に見た彼の姿だった。
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