第2章 集結、それぞれの想い

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 部屋に入って下に降ろしてもらったところで勢いよく扉が開き、酷く取り乱したイェルクが走り込んできた。 「ニコデムス様、一体どちらにいらっしゃったのです!」  アシュレイと顔を見合わせて苦笑する。やっぱり。 「天気が良かったから、アシュと空の散歩を楽しんできたんだ」 「空の、散歩?」  気付くとアシュレイの羽根は跡形もなく消えていた。出し入れが出来るとは便利な能力だ。しかし、吸血鬼が空を飛ぶというのは聞いたことがない。アシュレイにだけ備わったものなのだろうか。  イェルクは深い溜息を吐いて額に手を当てて項垂れた。またあまり寝ていないのか、目の下に隈ができている。 「本日はとても忙しいのですよ? 午後から略式の戴冠式を執り行いますし、国政に関しても様々な取り決めをして頂く必要があるのです。遊んでいる場合では――」 「ごめん、僕はもう王になったんだから自覚を持たないとね。今までみたいに遊んでいるわけにはいかない」  叱責の途中で謝られ何の言葉も継げなくなってしまい、ただ溜息を吐いて誤魔化すように笑う。 「まずは本日のお召し物にお着替えください。その後朝食を。難しい話は朝食の際に申し上げます」 「分かった。ありがとう」  イェルクはメイドを呼び、マリタとアイリが入ってくる。今日の戴冠式用に昨夜嫌という程試着して決めた服を持っていた。  寝巻きのボタンを外したところで、アシュレイがドアの方に向かい、 「私は外にいる」  と言って部屋から出て行ってしまう。男同士だし、マリタとアイリもいるのだから特に気にしないのだが。  脱いだ服をイェルクに渡して、マリタとアイリに服を着るのを手伝ってもらう。普段よりもきっちりした余裕のない服なので、袖を通すのも一苦労だ。  全身白を基調とした上着、膝丈のズボン、タイツで、華美に見えない程度に袖や襟、ボタンの周りに細かい金糸の刺繍が入ったものだ。戴冠式の時にはその上に代々受け継がれている、王のみに許された朱色のマントを身に纏う。今は服を汚さないように紺のローブを羽織った。
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