第1章 邂逅、そして誕生

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 誰にも見られないように慎重に周囲を確認しながら、使用人室の一室に入り、彼をベッドに横たえた。イェルクはカーテンを引き千切ってロープ状に繋ぎ合わせると、それで彼をベッドに縛り付けた。使用人室のカーテンとは言え、誰かに見つかったら怒られないのだろうか。 「これでとりあえずは大丈夫でしょう。彼が目を覚ましたらお呼び致しますから、ニコデムス様はお部屋へ戻ってお休みください」 「いや、僕が看る。僕が招き入れた客人なんだから。水を汲んでくるよ。あと、何か起きた時に食べられそうなものも」  男の額に汗が浮かんでいるのを見て、僕は蝋燭を手に部屋を飛び出し、後ろから呼び止める声が聞こえた気がしたが、振り返らず厨房に向かった。  誰もいない厨房を覗くと、ジャガイモなど日持ちのする野菜とオレンジと葡萄があった。果物なら食べられるだろうと思い、籠にいくつか入れて腕に提げる。また、近くにあった金だらいを持って外の井戸からポンプを動かして水を入れた。  見回りをする衛兵に見つからないように早足で部屋に戻る。僕の姿を見てイェルクが「全く……」と溜息を吐く。  小さなテーブルの上に果物とたらいを置く。何か布はないかと思って見まわると、イェルクが持っていたハンカチを差し出す。 「後でちゃんとしたものを持ってきます。とりあえずはこれで」 「ありがとう」  水に浸し、彼の額の汗を拭う。蝋燭の火に照らされた彼の肌は褐色で、東の彼方の島国に住むという人々と同じ特徴を持っていることに気付いた。吸血鬼の生まれたという南東にある国よりも、もっともっと途方もないほど東の国だ。 「彼は何処から来たのだろうね。西の国から来たといっていたけど。褐色の肌に、漆黒の髪、それに金の瞳。尖った耳や獣のように鋭い牙よりも、この容姿の方が不思議だ」  他国には植民地としてかつて占領した島国から奴隷を連れて来た歴史がある。だから、褐色の肌の人を見たことが無いわけではないが、自国ではとても珍しいし、金の眼など歴史書でそんな民族の記述をみたことがあるくらいだった。
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