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「やっぱり重いし動きにくいね……」
「礼服とはそういうものです」
スカーフを整えながら、イェルクが満足気に頷く。
「よく似合っていますよ。王の風格が感じられます」
「ありがとう。苦労した甲斐があったよ」
昨夜の事を思い出して苦笑する。イェルクは何のことか分からないといった様子だ。
昨夜は結局イェルクが良しとした着合わせに出会うまで何時間も着せ替えられたのだ。ここで似合わないと言われても困る。
部屋を出るとアシュレイは壁に寄り掛かって外を眺めていた。その横顔が寂し気に見えて声を掛けるのを躊躇する。しかし、すぐにこちらに気付いて僕の正面に立つ。
「ごめん、待たせたね」
眉ひとつ動かすこともなく、ただ真っ直ぐな瞳に見入られて動揺してしまう。
「陶器人形のようだな」
そう呟いた彼を見上げながら、それは褒めているのか、馬子にも衣装という意味合いなのかと考えてしまう。
「朝食を済ませようか」
真意を聞くのも恐ろしいので、彼の服の袖を促すようにちょっと引っ張って歩き出す。
広間に着くと、昨夜と同じ上座に促されるようにして座った。何だかまだ落ち着かない。
給仕係が甘いパンとオムレツとハムを並べ、紅茶をカップに注ぐ。朝は今までと同じでと頼んでおいたから、ちょうどいい量だ。
斜め向かいにアシュレイが座り、目の前に古ぼけたテーブルクロスが敷かれたかと思うと、皮付きのオレンジと葡萄がたんまりと置かれた。更にかなり大きなナプキンを手渡されている。昨晩の食事の際にテーブル周りが汚れたせいだろう。
ナプキンを首に巻いた後、やはり皮ごとオレンジに食らいつく。その豪快な食べっぷりに目を奪われていると、自分の食事を忘れてしまうので、慌ててオムレツを口に運んだ。
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