第2章 集結、それぞれの想い

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 イェルクはアシュレイの食べ方に顔をしかめながら紙束を手に広間に入ってきて、僕の斜め後ろに立った。 「ご報告致します。現在過剰に徴発していた兵士と物資を各村に返還する作業を進めています。二、三日中には完了する見通しです。また、国境付近へ送った支援部隊が一両日中に到着の予定です。到着し次第病気の治療が始められるかと」 「うん、問題なく進んでいるようでよかった」  良い報告ばかりで安心しながら、その後に続いた各国へ送るユリウス王の退位と僕が即位することを伝える書状の文面を読み上げられる。代筆を頼んだので、誤った内容になっていないかを確認したいようだが、全く同じ内容を何度も繰り返されてうんざりした。  そうしているうちに、あっと言う間にアシュレイは果物を食べ尽くしていて、口に着いた果汁をナプキンで拭い取っている。  イェルクの報告が終わる前に、僕も食べ終わってしまった。 「最後になりますが――」  やっとか、と気付かれないように溜息を吐いてから、紅茶を飲む。 「バルタジとミヒャーレで起こっている戦争についてですが、やはりバルタジが登用している吸血鬼のせいか全く勢いが衰えず、ミヒャーレが降伏するのも時間の問題かと」  ミヒャーレは我がアレクシルと国境を接する国だ。ミヒャーレが降伏、占領されれば、次の攻撃の矛先は我が国となるだろう。 「ミヒャーレに援軍を送ったところで、僕等だけでは今更何の加勢にもならないだろうね……」  動くのが遅過ぎた。まだ戦力が拮抗している時であれば、ミヒャーレへの加担を表明し和平交渉に入ることもできただろう。大臣たちはこの状況を知っておきながら、外交をまともに行わず、徴発ばかりを重ねて戦争への恐怖に震えていただけだったのだ。
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