第1章 邂逅、そして誕生

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 ふとイェルクの方を見ると、何か思い出したように彼を見詰め目を丸くしていた。 「どうしたの?」 「……いえ、何でもありません」  何かを誤魔化すように笑った後、真剣な表情でアシュレイを見詰めた。何か悪夢を見ているのか、苦しそうな表情を浮かべている。  再び額に手を伸ばした瞬間、ぱっとアシュレイの瞼が開かれる。驚いて手を引くと、彼の眼が僕を捉え、動こうとしたのか、ぎぎとベッドが軋んだ。 「ごめん、起きた時に暴れないようにと縛ってあるんだ。すぐに解放するよ」  カーテンで作った紐に手を掛けると、イェルクが僕の手を掴んだ。振り返り、彼の真剣な眼差しに手を引っ込める。 「その前に……ニコデムス様や私、この国の者達の血を吸わないと約束しろ。貴様が吸血鬼だというのは分かっている」  その言葉に眉間に皺を寄せて、僕とイェルクの顔を交互に見る。そして、アシュレイの視線がテーブルの上のフルーツに釘付けになった。ごくり、と喉が鳴る。 「君のために用意したフルーツだ。食べられるか分からないけれど」  書物に吸血鬼を見分ける方法の一つに血液以外の食べ物を口にできるかどうか試す、という記載に覚えがある。血液以外の食べ物を口にするとあまりの不味さに吐き出すのだという。そう考えたら、空腹だからといって、吸血鬼が果物を食べられるとは思えなかった。  それでも彼の要望であればと籠を手に取り、葡萄の実を一粒、皮を剥いて彼の口元に持っていった。もしかしたら近付けた指に噛み付くつもりなのかもしれない、と思わない訳ではなかったが。
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