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時計の針は午後六時を回っていた。
夕飯の支度にとりかかる気力もなく、のろのろと四畳半の和室へ入った。部屋の隅に積まれた布団の上に、ごろんと転がり目を閉じる。
そうだ……職場に電話を一本入れないといけない。青羽の事で書店から職場へ連絡が入り、事情を聞いてすぐに飛び出したのだ。――ああでも、体を動かせない。
私は週五日間、朝から晩まで働いて、食べて眠って起きてまた働いて。それを延々とくり返し、私たち親子が食いっぱぐれずに生きていくため日々戦っている。けれど、同居人の娘にはひたすら無視され続ける日々でもある。
以前は確かな目標があったはずなのに、何のために、どこへ向かって生きていけばいいのか、どんどんわからなくなっていく。
青羽のため。娘が頼れるのは母親の私だけなんだから、私がこの子を守っていかなければ。そう思って、青羽が幼いころはとにかく必死だった。
――あの子は、本当は父親と暮らしたいと思っているんだろうか……。
元夫が再婚したらしいと、共通の友人に聞いたのはずいぶん前のことだ。新しい家族も増えているかもしれないし、どこでどんな暮らしをしているのか一切わからない。
けれど青羽にとっては、折り合いの悪い母親と家庭内別居のような状態でいるより、継母というおまけの存在があったとしても、父親との暮らしの方が居心地がいいんじゃないだろうか。
毎日眠りにつく前に、私はそんなことをぐるぐる考えてしまうのだ。
横になったまま頭の上へ手を伸ばすと、つるりとした感触が指先に触れた。本棚に行儀よく並んでいる漫画本の背表紙だ。それを本棚から一冊抜き出す。
四畳半のスペースには大きすぎる、圧迫感たっぷりの巨大な本棚。ここには、私の大切な漫画本が綺麗に並べられている。幼いころお小遣いで買ったものから、つい最近手に入れたものまで、少女漫画や少年漫画、青年漫画。ジャンルを問わず、全て処分せずに保管してきた。
これは私の大切な、唯一の娯楽だ。
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