(二)

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 目覚めると、部屋の中は真っ暗だった。    二時間も寝落ちしていたらしい。アナログ時計の数字が闇の中浮かび上がり、八時を指していた。 「うわ……すっかり寝ちゃった」  私は寝転んだまま、長年愛用の電気スタンドを点けた。そのとき気力があれば、悲鳴を上げていたかもしれない。    見上げた視線の先に、小さな女の子が座っていた。その子は本棚に寄りかかり、勝手に私の大切なコレクションを手にしている。私はぼんやりした頭で、女の子とその手の中の漫画本をじっと見つめた。  小さな手がパラパラとページをめくり、閉じては棚に戻し、また取り出してパラパラ紙をめくるのをくり返している。    ――何これ夢? 夢なの? やけにリアルなんだけど。    ふう、と可愛らしいため息が聞こえた。女の子は、見た目にそぐわない緩慢な仕草で漫画を眺めている。 「……すごい漫画の量。大人のくせに少女漫画が好きだなんて変わってるわね。小説が一冊も見あたらないけど、本は苦手なの?」 「はあ…………え?」 「わかってる? あなたはもう自立した大人なのよ。なのに、頭の中は子供のまんま大人になったとでもいうわけ? あきれるわね。それじゃだめよ、小説も読まないと」    いきなり初対面から言われっぱなしである。 「ちょっと……あのねえ、何を勝手に」 「一人娘の青羽(あおば)。先に顔見てきたけど、あんまり似てないのね」    どう見ても、六歳か七歳くらいにしか見えない女の子は、大人顔負けのセリフを次々私に投げてくる。さっきは命令口調だったし。    灯りが足りないから表情まで確認できないけれど、小さな肩にちょこんと乗った二本のおさげ髪はピンクのリボンできちんと結ばれている。そして、レトロなデザインの花柄のワンピース。足首にフリルのレースがついた靴下が、なぜか妙に懐かしく感じた。    気力と体力の消耗が極限に近づくと、こんなにもリアルな夢を見るのだろうか。 「あなたの名前はチナツでしょ」    女の子の小さな口から自分の名前が出て驚くが、もしも夢なら、これもありなのかとすぐに納得した。 「あたしも……チナツよ」    つぶらな黒い瞳が真っ直ぐ私を見据え、少しだけ遠慮がちに言った。 「ほんとに? へえ……いったいどんな設定なのかしら」    彼女はすっと立ち上がると、「夢なんかじゃないわよ」と言いながら、私のすぐそばまで近づいた。  これは夢のはずだ。なのに、現実味を帯びた立体的な感覚が皮膚から伝わり、体が泡立つようだった。
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