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とある山奥。屋根や壁が腐った、今にも崩れそうな木造の荒れ寺の中。真っ暗な空間の中央に、十本のロウソクの火が揺らめき、それを三人の男の声と、二人の女の声が囲っていた。そこでは今まさに、“百物語”が行われている最中である。
百物語とは、数人が集まって怪談を語り合う古い遊びのこと。ロウソクを百本用意し、怪談を一つ語る度に火を一つ消して行く。百話を語り終え、ロウソクの火が全て消えると、化物が現れたり、怪異に見舞われたり、何か恐ろしいことが起こるとされているのだ。しかし、実際にそんなことが起こってしまっては困るので、九十九話まで語って朝を待つのが通例である。
五人は、実際に百本のロウソクを用意し、人里離れた荒れ寺の中で、そんな百物語に挑戦をしていた。そして、残ったロウソクは十本。すなわち九十話を語り終え、百物語はクライマックスを迎えようとしていた。
普通ならば、いよいよといった場面であり、一番盛り上がりそうなところである。しかしながら、現在の五人にそんな様子は全く見られなかった。発せられるのは、うーんと悩むような唸り声ばかりで、一向に怪談が語られる気配もない。
一体何が起こったのか? 別に大した訳もありはしない。単純に、話のネタが尽きてしまったのだ。
念入りに計画を立てていたわけではなく、言わばノリや勢いで企画した肝試し。六十話を語ったあたりで明らかな失速を迎え、そこからはもうグダグダだった。何とか絞り出すように、二番煎じ、三番煎じとも思われる似たような話で繋ぎ、ようやく九十話までこぎつけたが、さすがに限界である。パスが二周したところで、皆黙り込んでしまった。
時間の経過とともに、飛び交う唸り声も次第に少なくなる。かすかな音も光ものみ込むように、侘しい暗闇がその支配力を強めていた。
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