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「それはさっきの話と重なっているんじゃない? 要するに、時間の流れの異常よ。私たちはずっと長い間、話を続けているはずだけど、実際には時間がほとんど流れていない。そう考えれば、夜が明けないことも、ロウソクが短くならないことも説明ができる。根にあるのは同じ現象と見ることもできるでしょ」
ピアノが凛とした態度で指摘すると、「やれやれ、お前は本当に真面目だなあ」と和太鼓は呆れ声を返した。
「そんな細かいことはいいんだよ。大体、ここで語るべき怪談っていうのは、別に実話である必要はないんだろう? だから、九十一話目のタイトルは『明けない夜』、九十二話目のタイトルは『溶けないロウソク』。それでいいの!」
ピアノを押し退けるように言って、和太鼓は九十二本目のロウソクを吹き消した。すると、
「……だったらさ。私も一ついいかな。ちょっとかぶっている部分はあるんだけど」
今度は木琴が、和太鼓の声色をうかがうように言った。
「お、何だ?」
「さっき時間の感覚がおかしいって言ってたでしょ? だけど、おかしいのは時間だけじゃないよ。私たち、ずっと話し続けているのに、全く疲れを感じないでしょう。眠くもならないし、喉すら乾かない」
「言われみればそうだな。すごく良いじゃないか。さっき言ってた時間の流れの異常って話だけじゃあ説明ができない。時間がゆっくりだろうが何だろうが、俺たちは実際に喋ってるわけだからな。本来なら、その分だけ疲労が溜まるものだろう。なあ?」
和太鼓がわざとらしく確かめるように声を投げかけ、
「……うん、まあ確かにね」
半音下げてピアノが認めた。
「いいぞ、いいぞ。『疲労しない身体』。これで九十三話。あと六話だ。ゴールが見えてきたじゃないか!」
和太鼓が言って、ロウソクの火がまた一本消える。
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