百物語インザ常闇

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「……言われてみれば、確かにロウソクの存在と声だけはこんなにはっきりとしているのに、それ以外はどうも曖昧な感じがするんだよな……」  今さらながら、サックスが不思議そうに言う。するとピアノが、 「それよ。物忘れっていうのかな。記憶もあやふやじゃない? 私たちってキャンプでこの山に来たのよね? で、心霊スポットで有名な荒れ寺が近くにあるからって、夜は百物語をやろうって話をしていて……それで、どうしたんだっけ?」 「うーん、確かによく思い出せないな。『ぼやけた記憶』か……」  サックスが呟くと、また一本、ロウソクの火が消える。 「考えてみればさ、おかしなことだらけだよな。それなのに、何故か言われるまで気付かない。今の俺たちは、百物語を完成させることしか頭にないもんな。それ以外のことは大したことじゃないというか、どうでもいいっていうかさ」  エレキギターが言うと、「なるほど。それだよ!」と和太鼓が嬉しそうに声を大きくした。 「つまりさ、『百物語に取り憑かれた者たち』ってところだな。まさしく最後の話に相応しいじゃないか。よし、やったぞ! これで九十九話だ!」  また一つロウソクの火が消え、ついにロウソクは最後の一本となった。長かった百物語もようやく終わりを迎え、わき上がる達成感と充足感。抱き始めていた疑問も一瞬で吹き飛び、五つの漏れた溜め息と歓声がアンサンブルとなる。
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