はじまり

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はじまり

 私が最近よく行くようになったファストフード店には、いつも同じ席に座って音楽を聴いている人がいる。  その人は少しうつむき加減に音楽を聴きながら、ポテトを咀嚼する。咀嚼、そう、食べているというよりは、だだ噛んで飲み込んでいる感じだ。  大学生だろうか。とても不思議な人。  あぁ、でも、私もいつも同じ席に座って空を見上げてる変な子だ、と思われているかもしれない。今日も学校が終わり、窓からの景色を眺めたくてその店に足を向ける。自動ドアをくぐり、いつものようにがら空きの店内を見渡して、足が固まった。  その人が私が座るはずの席に居たから。  別に私の席ではないのだからいいんだけれど、何の気まぐれだろうか。私は何となく注文した飲み物を持って、いつも彼がいる席へと座った。  こんな風に見えているのか。あの人も、どこか取り残されたようなこの空間に、妙な居心地の良さを感じているのかもしれない。  前方に見える後ろ姿はどこか寂しげだ。俯いた頭が余計にそう見える。人が居ない静かな店内。彼のヘッドフォンから漏れ聞こえる音が、唯一空気を震わせていた。  微かに流れる音にしばらく耳を傾けてみる。そうして彼の背中を眺めていたその時、私は小さく息を飲んだ。ゆったりと上がった彼の頭。静かに空を見上げる姿に、思わず見入ってしまった。  そこから何か、見えましたか?  私は何だか彼が可愛く思えてきて、無性にその寂しげな背中に触れたくなった。
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