連鎖

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連鎖

 大学の帰りに俺がいつも行くファストフード店は最高に立地条件が悪いらしく、いつ行ってもがら空きだ。  どこに座っても自由な位に空いた座席。だけど、俺は決まって窓際の一番奥の席で音楽を聞いていた。誰にも邪魔される事のない一人の時間だった。  だった、と言うのはこの一ヶ月ほど、俺の前の座席に必ず座る女の子が現れたからだ。高校生だろうか、確か駅の反対側に学校がある。  腐るほど座席は空いているのになんでよりによって前にと最初は思ったが、ただじっと座って空を眺めるその子を最近では観察するようになってしまった。  その日も塩辛いポテトを食べながら時間を潰していると、自動ドアの開く音と店員の空回りした「いらっしゃいませ」という声が聞こえた。この時間に来るのはあの子位なもんで、俺は何の気なしにドア付近を見て思わずヘッドフォンを外してしまった。 「小田切さんもこんなとこくるんだ、意外」 「え?そうかな」  あの子が男と連れ立って入って来たから。  しかしまぁ、男がいたからといって驚く事でもない。何故外してしまったのか解らないヘッドフォンを見つめ、俺は再び音楽を聞き始めた。  小田切と呼ばれていたあの子はいつもの席に座り、何か話し込んでいる。彼女の顔は後ろからでは見えなかったが、男の方はそれなりに愉しそうだ。  俺はなんだか馬鹿らしくなり、音に集中しようとした。けれど、何故か耳から入った音は、頭の中をすり抜けていく。少しも残らないそれに苛立って、またヘッドフォンを外した。  ポテトへと手を伸ばすと容器はすっかり空になっていて、塩辛い味も解らないほどに苛ついていたのかと可笑しくなった。  俺は席を立ち容器をゴミ箱へ捨てると小田切さんの横を通りすぎ店を出た。  ちらと見た彼女の顔はいつも以上に切なそうで、それに気がつかない男の間の抜けた笑い顔は当分の間忘れられそうにない。  駅へと向かう途中、ふと空を見上げる。高く青い空はなんだか切なくて、口の中に甦ってきた味は、酷く苦かった。
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