100連敗のその先に

1/1
26人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

100連敗のその先に

「どうすれば愛してもらえるのだろうか……」  ぼくは、若い時は競馬に夢中になっている間に過ぎてしまい『彼女いない歴=年齢』のまま、三十路も後半に突入していた。  地方公務員ではあるが、恋愛に関してはことごとく負け組だ。たまにデートに誘われたと思ったら、おなじみの詐欺だった。ということもしょっちゅうだ。  この年になって、急に一人でいることが寂しくなってきたが、そもそも愛されるにはどうしたらよいのだろうか?  もう相手にぜいたくは言っていられないが、せめて愛し合いたいとは思っている。が、季節は春なのに、心の中は冬のまま。  ♪春のうららの隅田川……。  気持ちだけでも春になろうと口ずさんでいると、ふと「ハルウララ」という競走馬のことを思い出した。  地方の高地競馬に所属していた彼女は15年ほど前、負けても負けてもレースに挑戦する姿が話題を呼んで「負け組の星」として全国的に知られるようになった。  僕も「当たらない」からと、100連敗した時の単勝馬券100円分を、交通安全のお守りとして買ったことを覚えている。  106戦目には、中央競馬の「平成の天才」武豊騎手が騎乗し、まさに時代の申し子となった。  しかし、オーナーが何かと人騒がせな人物に変わってしばらくした2004年9月、その人によって高知競馬場から突然トレーニング施設に移送されてしまった。  幾度か復帰の話が出たものの結局かなわず、2006年10月に競走馬登録を抹消され、事実上の引退となった。  そのころにはハルウララの名前は、ほとんどの人が忘れていた。  その後はホースセラピーに使われたなどの報道があったが、どうなったのかはよく知らなかった。  引退した競走馬の末路は、種牡馬や繫殖牝馬、乗馬などになれる馬はごく一部。  そうでない馬は……「残酷な現実」が待っている。彼女もその現実を受け入れざるを得なかったのだろうか?  恐る恐る「ハルウララ」を検索してみると……、  現在は千葉県御宿町にある「マーサファーム」で余生を送っているということがわかり、ぼくはとても驚いた。  オーナーは「春うららの会」に代わっている。お騒がせな人物が事実上手放した彼女を引き受けたのだ。  2018年夏には、木更津警察署の夏の安全啓発ポスターのモデルになったりもしている。  100連敗(最終的には113連敗)という不名誉な記録と、かつての人気を博した馬という以外、怒られるかも知れないが、見所のほとんどない彼女が幸せな余生を送っているというのは、いったいなぜなのだろうか。  形容する言葉も思い浮かばないが、僕は彼女に会いたいと思った。 「愛されるためには」……、その答えは、彼女が持っているはずだから。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!