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『……ところで、本題なんだけどさ。おまえ、今日ヒマ?』
「暇じゃない」
即答だった。残念ながら、今日のスケジュールは、だいぶ前から決まっている。今更変更する気など、さらさらない。
しかし友人の方はというと、案の定というか、不服そうな声を漏らした。
『ウソつけよ。どうせおまえの休日なんて、1日部屋でごろごろして、はいおしまい、だろ。用事なんてあるもんかよ』
「うるさい。とにかく、今日は用事があるから、無理なものは無理だ。……だいたい、釣りに行きたいのなら、誘うのは俺じゃなくてもいいだろ。こっちは忙しいんだよ」
そう言い放つと、友人は『え?』と間の抜けた声を出した。そのまましばらく沈黙を続けていたが、やがて、『なんで』と続ける。
なんで、俺が釣りに誘おうとしていた事が分かったのだ、と。
――無意識に、息が漏れた。
「『なんで』も何もない。おまえはな、おまえが思っている以上にワンパターンな男なんだよ。おまえが何を考えているのか、おまえが何を言ってくるのか、そのくらい、簡単に予想出来る」
『マジかよ、すげえな。おまえ、実はエスパーだったのか?』
「……。あるいは、そうなのかもな」
適当に相づちをうちながら、カレンダーを、じっと見つめる。書いたばかりの『99』という数字を指でなぞり、す、と目を細めた。
99。
99。
99……。
「…………」
ぼうっと立ち尽くしていると、耳元で、小さな舌打ちが聞こえた。
『しょうがねえから、ひとりで行ってくるよ。……あ、もしいっぱい釣れたとしても、分けてやらねえからな』
「どうせ行っても、今日はほとんど釣れやしない」
『げ、それも予言か?』
「違う。そう言っておけば、大抵当たる」
釣りはまた今度な、と言って、電話を切る。スマートフォンを耳にはりつけたまま、俺は窓の外に目を向けた。そうして、今自分で言ったばかりの言葉をもう1度口の中で唱え、反芻する。
――また今度。
それは果たして小さな嘘なのか、あるいは大きな嘘なのか。俺には判断出来ない。
いずれにしても、1つだけ確実に言えるのは、その『今度』は一生来ない、という事だ。
ぴろん、という電子音が鳴る。
彼女からのメールが届いた。
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