今日また彼女にアイに行く。

2/9
前へ
/9ページ
次へ
『……ところで、本題なんだけどさ。おまえ、今日ヒマ?』 「暇じゃない」 即答だった。残念ながら、今日のスケジュールは、だいぶ前から決まっている。今更変更する気など、さらさらない。 しかし友人の方はというと、案の定というか、不服そうな声を漏らした。 『ウソつけよ。どうせおまえの休日なんて、1日部屋でごろごろして、はいおしまい、だろ。用事なんてあるもんかよ』 「うるさい。とにかく、今日は用事があるから、無理なものは無理だ。……だいたい、釣りに行きたいのなら、誘うのは俺じゃなくてもいいだろ。こっちは忙しいんだよ」 そう言い放つと、友人は『え?』と間の抜けた声を出した。そのまましばらく沈黙を続けていたが、やがて、『なんで』と続ける。 なんで、俺が釣りに誘おうとしていた事が分かったのだ、と。 ――無意識に、息が漏れた。 「『なんで』も何もない。おまえはな、おまえが思っている以上にワンパターンな男なんだよ。おまえが何を考えているのか、おまえが何を言ってくるのか、そのくらい、簡単に予想出来る」 『マジかよ、すげえな。おまえ、実はエスパーだったのか?』 「……。あるいは、そうなのかもな」 適当に相づちをうちながら、カレンダーを、じっと見つめる。書いたばかりの『99』という数字を指でなぞり、す、と目を細めた。 99。 99。 99……。 「…………」 ぼうっと立ち尽くしていると、耳元で、小さな舌打ちが聞こえた。 『しょうがねえから、ひとりで行ってくるよ。……あ、もしいっぱい釣れたとしても、分けてやらねえからな』 「どうせ行っても、今日はほとんど釣れやしない」 『げ、それも予言か?』 「違う。そう言っておけば、大抵当たる」 釣りはまた今度な、と言って、電話を切る。スマートフォンを耳にはりつけたまま、俺は窓の外に目を向けた。そうして、今自分で言ったばかりの言葉をもう1度口の中で唱え、反芻する。 ――また今度。 それは果たして小さな嘘なのか、あるいは大きな嘘なのか。俺には判断出来ない。 いずれにしても、1つだけ確実に言えるのは、その『今度』は一生来ない、という事だ。 ぴろん、という電子音が鳴る。 彼女からのメールが届いた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加