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―――
――
それは、あの日彼女が死ぬ前に送ってきたメールの内容と、違(たが)わぬものだった。
読み終わると同時に、いろいろなものが、いっぺんに込み上げてくる感覚に襲われる。
生ぬるい、湿った空気を、吸い込む。
確かに俺はあの日、彼女にメールの返事を送らなかった。このメールに返事をしていれば、きっと彼女が死ぬ事はなかっただろうとは思う。
それは、分かる。理解は出来る。でも。
――でも、だから、なんだと言うのだ?
車からのろのろと降りて、車体にもたれかかる。空を仰ぐと、とたんにまた、激しい吐き気に襲われる。
嘔吐する。
……俺は、いったいどうすればよかったのだ? また自分自身に問いかける。
あの時俺は、彼女のコエを無視した。意図的に――でも、どうしようもなかったのだ。
あの時彼女の相手をすれば、メールを送り返せば、きっと彼女は死なない。死ななかった。でも、それは所詮『その時』だけだ。
しばらくすれば、また彼女から『こんな』連絡が来る。
朝も。昼も。夜も。寝てる時も、飯食ってる時も、仕事してる時も、問答無用で連絡が来る。それらに、全部、いったい、どうやって、相手出来るというのだ?
「……なあ、教えてくれよ。俺はいったい、どうすればよかったんだよ?」
誰に向けるわけでもなく、ただ、つぶやく。思っている事を、流れるように、吐き出す。
もちろん、それに対して返事を返してくれる者はいない。――ただ。
メールが届いた。
「……はは」
乾いた声で、笑う。
彼女は、死んだ。死んでいるはずなのに、以来、俺のスマートフォンには、ずっと彼女からのメールが届く。
いったいどこから送っているのか。どうやって送っているのか。それは分からない。
もしかしたらこれはただの幻覚で、狂ってしまった俺が観ているマボロシなのかもしれない。
――ただ、届く。
あの日、あの時と同じ文面のメールが、十数分置きに、1日100通きっかり、毎日送られてくる。一方的に。だから。
俺は彼女ニ、アイに行かナければなラない。
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