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その手を取る
「…」
手首が痛む。ひとまとめにされ、ベッドの柵にくくりつけられているから身動きがとれないし、何度も中に出され、気絶し、起きたらまた犯される…その繰り返し。次第に感覚が麻痺してしまった。俺自身は恐怖と痛みのせいで快楽を感じることは一切なかった。
「…、…見えない…」
目には細い布が巻き付けられ、視界が制限されている。奇しくも「あの部屋」に監禁されていた時と同じ状態になったというわけだ。
唯一違うのは、この部屋の誰もが俺のことをぞんざいに扱うところだろうか。
今、この部屋には城戸はいない、はず。出かけると言っていた。ベッドのそばでは、男たちがゲラゲラと笑いながら食事をとっている。テレビの音量もうるさい。寝ることもままならず、俺は次に解放されたときどうしようか考えていた。
誰にも相談なんてできない。やっぱり警察に相談すべきなんだろうか…。
こういう時、相談できるような人が身近にいないということが突きつけられる。ああ、そういえばバイト…無断欠勤をしてしまった。河瀬が心配してるかもしれない。それに、今度こそクビかも。
「…今入ったニュースです…」「おっ、この女子アナ美人じゃね」「あー、新人だろ」「いいよなー」「…昨夜午後10時頃…」「あ?何だ?」「おい、お前いつの間に入ってきた」
テレビを見ながら男たちが会話をしているのが聞こえてくる。でも誰が何を喋ってるのか、色々な音声が混ざってわからない。
瞬間、バキッ、という大きな音が聞こえ、何かが倒れる音も聞こえてきた。そして、罵倒と怒声が響く。何だろう、仲間割れ?
数分後、その場が静まり返る。
聞こえてくるのはニュースだけ。
ベッドの端がギシリと音をたてる。
誰か、いる。体の震えが止まらない。
「…っい、嫌だ、痛いこと、しないでくれ」
「…」
ぎゅ、と目をつぶり衝撃に備えていると、拘束されていた手首が解放されたのが分かった。目元を覆っていた布も外され、突然の光に目が眩む。視界が慣れてきて、人の顔が目前に見えた。
「…? だ、れ?」
知らない。
今まで会ったことがない。
肩につく程度の黒髪で色素の薄い色の瞳。
端正な顔立ちの青年。
「…大丈夫」
「え」
柔く抱きしめられ、背を撫でられる。
その感触に覚えが、ある。
「俺が守るから安心して、稔」
「…、…」
この撫で方と、優しい声色と、そして、愛しそうに俺を見つめる表情。
そうだ、こいつは…
俺のことを好きだからと監禁した男。
「………蓮矢?」
蓮矢は、嬉しそうに微笑んだ。
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