君を守るために②

1/1
前へ
/27ページ
次へ

君を守るために②

進級してしばらく経ってからのことだ。 俺はいつものようにれんくんと会ってから家に帰った。すると、父さんが家の扉の前に立っていた。 立ち止まり、息をひゅっ、と飲む。 玄関先にいることなんて、いつもないのに。 「た、ただいま…」 「おかえり、稔。話があるから中に入りなさい」 「はい…」 ビクビクしながら家の中に入る。 ガチャン、と閉められたカギの音が、やけに重たく響いた気がした。 「…あの、父さん…話って、何…」 「そこに座りなさい」 「は、はい」 怯えながら父さんの向かいに座る。 自然と正座の形になってしまう。 俺は何かしてしまったのだろうか。 気に障るようなことをした覚えはないけど、些細なことで父さんは豹変する。 もしかしたら俺が気付いていないだけで、何かしでかして、父さんの怒りに火をつけたのかもしれない。 「最近、帰りが遅いな」 「そ、そうかな…」 「ああ。学校が終わってから、寄り道してるんじゃないか?」 「が、学校で、係の仕事したりして、遅くなることが、あって…」 「…そうか」 嘘じゃない。 文化祭の準備で少しだけ残ることがある。 そのあとれんくんに会ってるから、確かにだいぶ帰りは遅くなってしまうけど。 「…これは?」 「え…」 父さんが携帯の画面を見せる。 そこには、あの公園で楽しそうに話している俺とれんくんが写っていた。 「これ、は…」 「ダメじゃないか、稔」 「っ、ひ…っ!」 ぐい、と前髪が掴み上げられる。 痛みと恐怖で体が硬直してしまう。 「お前は今、隠し事をしたな」 「ごめ、ごめんなさい…っ」 「寄り道をしているなんて、悪い子だ…」 「や、やめ、…父、さん…」 「嘘をつくような子になってしまったなんて、父さんは悲しいよ。もう二度とそんなことをしないように、きちんと躾し直さないといけないかな」 「ご、ごめんなさい、痛いの、いや、いやだ…っ」 「そうだ…この子にも、稔と仲良くしてることにお礼を言わないとな」 「!!や、いやだ、そんなこと…っ」 「どうしてだ? それはお前にとってこの子が"大切"だからなのか?」 「そ、れは」 「どうなんだ? 父さんよりもこいつと会う方が楽しいのか? 父さんよりも好きなのか? 父さんよりもこいつを優先するのか?」 もし、もしも、父さんがれんくんに会ったら、れんくんも酷いことをされるかもしれない。 ダメだ。そんなこと絶対ダメだ。 「とう、父さんの方が、大切、だから!」 「そうなのか?」 こくこくと泣きながら頷くと、父さんは満足げに微笑んだ。その笑みにぞっとする。 「じゃあ、もうこいつに会うことはやめなさい」 「…っ」 「約束できるね?」 「でき、できる…っ」 「いい子だ」 絶望に染められていく心の中で、一言だけ、れんくん、と呟いた。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1745人が本棚に入れています
本棚に追加