1745人が本棚に入れています
本棚に追加
君を守るために②
進級してしばらく経ってからのことだ。
俺はいつものようにれんくんと会ってから家に帰った。すると、父さんが家の扉の前に立っていた。
立ち止まり、息をひゅっ、と飲む。
玄関先にいることなんて、いつもないのに。
「た、ただいま…」
「おかえり、稔。話があるから中に入りなさい」
「はい…」
ビクビクしながら家の中に入る。
ガチャン、と閉められたカギの音が、やけに重たく響いた気がした。
「…あの、父さん…話って、何…」
「そこに座りなさい」
「は、はい」
怯えながら父さんの向かいに座る。
自然と正座の形になってしまう。
俺は何かしてしまったのだろうか。
気に障るようなことをした覚えはないけど、些細なことで父さんは豹変する。
もしかしたら俺が気付いていないだけで、何かしでかして、父さんの怒りに火をつけたのかもしれない。
「最近、帰りが遅いな」
「そ、そうかな…」
「ああ。学校が終わってから、寄り道してるんじゃないか?」
「が、学校で、係の仕事したりして、遅くなることが、あって…」
「…そうか」
嘘じゃない。
文化祭の準備で少しだけ残ることがある。
そのあとれんくんに会ってるから、確かにだいぶ帰りは遅くなってしまうけど。
「…これは?」
「え…」
父さんが携帯の画面を見せる。
そこには、あの公園で楽しそうに話している俺とれんくんが写っていた。
「これ、は…」
「ダメじゃないか、稔」
「っ、ひ…っ!」
ぐい、と前髪が掴み上げられる。
痛みと恐怖で体が硬直してしまう。
「お前は今、隠し事をしたな」
「ごめ、ごめんなさい…っ」
「寄り道をしているなんて、悪い子だ…」
「や、やめ、…父、さん…」
「嘘をつくような子になってしまったなんて、父さんは悲しいよ。もう二度とそんなことをしないように、きちんと躾し直さないといけないかな」
「ご、ごめんなさい、痛いの、いや、いやだ…っ」
「そうだ…この子にも、稔と仲良くしてることにお礼を言わないとな」
「!!や、いやだ、そんなこと…っ」
「どうしてだ? それはお前にとってこの子が"大切"だからなのか?」
「そ、れは」
「どうなんだ? 父さんよりもこいつと会う方が楽しいのか? 父さんよりも好きなのか? 父さんよりもこいつを優先するのか?」
もし、もしも、父さんがれんくんに会ったら、れんくんも酷いことをされるかもしれない。
ダメだ。そんなこと絶対ダメだ。
「とう、父さんの方が、大切、だから!」
「そうなのか?」
こくこくと泣きながら頷くと、父さんは満足げに微笑んだ。その笑みにぞっとする。
「じゃあ、もうこいつに会うことはやめなさい」
「…っ」
「約束できるね?」
「でき、できる…っ」
「いい子だ」
絶望に染められていく心の中で、一言だけ、れんくん、と呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!