二人きり ※

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二人きり ※

「…今、何時くらいなんだろう…」 目を開けても、相変わらず何も見えない。 でも一応、明暗は分かる。ぼんやりと明るさが変わっていく中で、何となく朝と夜くらいの差は分かるようになってきた。たぶん、部屋に光の差し込む窓があるんだと思う。 「…はは」 乾いた笑いが込み上げる。 部屋の中に何があって、広さはどれくらいで、そもそもここはどこで…何もかもが分からなくて辛い。見えなくなると、人はこうも無力になるのか。 ベッドに体育座りになり、顔を伏せる。 俺をここに監禁しているあいつは、ほとんど何も喋らない。質問しても何も返ってこない。ただ俺の世話をして、犯して、寝かせて…そしてまた、同じ朝が来る。 見えないから、逃げ出すこともできない。 下手に抵抗したら殺される可能性だってある。 「…!」 ぐるぐると頭を悩ませていると、扉が開く音がした。良い香りが鼻をくすぐる。監禁男は、毎日3食、きっちり料理を持ってくる。 仕事をしてないのか、在宅仕事なのか…何にせよ、俺はほとんどの時間を一緒に過ごしている気がする。 ぎしり、とベッドが音を立てながら少し沈む。 俺の隣に男が腰かけたらしい。 震えながら顔を上げると、ふに、と柔らかく唇を指で押される。 「…むぐ」 そして、やわらかい、たぶんパン、だろうか、一口大に切ったものが押し付けられる。 最初は食べ物も拒否してたけど、結局空腹には勝てなくて食べてしまっている。 「…、パンくらい、自分で…」 恐る恐る主張するが、やっぱり返事はない。 代わりにゆっくりとスプーンが口内に入れられる。でも、上手く口に入らず、口元を伝って首に流れていく。 「…っ、ひっ、あ!」 べろ、と舌で首筋を舐めあげられる。 男から距離を取ろうと腕を伸ばすが、手首をとられ、壁に押し付けられる。 「っ、っ、あ…っ」 震えながら、ぎゅうと目を閉じる。 男は、舌を這わせながら、器用に俺の服を脱がしていく。 「い、いやだ…っ、離せ…っ!」 じたばたともがくが、体格差があるのか、押さえ込まれてしまう。恐怖で力が入らないせいもあるだろう。 首筋から、鎖骨…と少しずつ生暖かい感触が下がっていき、ささやかに主張をしている胸の尖りも舐め上げられる。 「っ、っ、!」 言葉にならない悲鳴を上げながら、刺激に耐える。舐められ、舌で転がされ、柔く噛みつかれる。そんなことで快感を得られるなんて、今まで知らなかった。 じゅ、と音をたてながら吸われ、腰がびくんと跳ねてしまう。少しずつ、少しずつ男に開発をされてしまっていることが、また俺の心を蝕み、壊していく。 「は、…んんっ、ん、ぐ…っ」 声を上げまいと唇を噛み締める。 次第に鉄の味がしてくる。強く噛みすぎて血が出てしまったのかもしれない。 「…ん、んぐっ?!」 すると、咎めるように唇が重ねられ、口内に舌が差し込まれる。このまま噛み切ってやろうか、と攻撃的な考えになるが、そんなことをして相手を刺激したら、さらに怖い思いをするかもしれない。 それに…そんな暇を与えないほど、男が与えるキスは気持ちがよかった。 男相手に、とか、見えない相手なのに、とか… たくさんの考えが頭をよぎるけど、全て霧散してしまう。 「ん、んぁ…っ、あ、ぐ…っ」 混ざりあった唾液が口の端からこぼれ落ちる。 力が入らなくなっていき、男の成すがままにされてしまう。抵抗したいのに、できない。 男は俺が大人しくなったのを見てなのか、ゆっくりと拘束していた手を外し、深いキスを繰り返しながら俺の昂りに手を伸ばす。 そこはすでに半勃ちになっており、男が触れると、ひくり、とその先を期待して震える。 「…っ」 でも、指先でなぞるだけで、決定的な刺激は与えられない。もどかしい。 違う、いつもみたいに、もっと… 脳裏に浮かんだ言葉に、絶望する。 「う…っ、く…、ひっく…」 悔しい。涙なんて見せたくないのに、作り替えられていく自分自身が情けなくて、悔しくて、苦しい。 涙があとからあとから、止めどなく流れてくる。 なぞるように触れていた男の手が止まる。 キスも止め、その場は沈黙に包まれた。 俺のしゃくりあげる泣き声が静かに響く。 男は、俺から離れていった。 「…っ、う、うぅ…」 泣き始めたから、煩わしくなったんだろうか。 それはそれで構わないんだけど、でも、高められた熱をどうしたらいいんだろう。 放っておけば、その内収まるかもしれない。 でも、今この瞬間、吐き出したくてたまらない。 「…っ、ひっく…」 恐る恐る自身に触れる。 俺の指先に、ねばついた液体が絡む。 男がまだ目の前にいるはずなのに、擦ろうとする手が押さえられない。 「あんたのせいで、俺の体…おかしくなってる…っ、う、ぐ…」 俯き震えながら言うと、男がごくり、と喉を上下させたのが分かった。 「…っあ!」 男が距離をつめ、俺の手ごと昂りを包み込む。 そして男も熱い昂りを押し付けてきた。 「ん、ん…っ、あつ、い…」 自分と男の昂りを握らされる。 そして、男は自身の手を俺の手に重ね、擦り始めた。男が手を動かしてるだけなのに、まるで自分が動かしてるような錯覚に陥る。 「あ、あっ、そこ、だめ…っ、んん、っ」 先端を親指でぐりぐりといじられ、裏筋が男の昂りに擦られ、言い様のない感覚が背をかけ上がる。 気持ちいい。 「あ、ぁ、だめ、も、出る、出ちゃう、から…っ」 擦る速さが上がっていき、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が部屋に響く。腰が自然と揺れてしまい、さらなる快感を得ようとする。 「あ…っ、ん、んんっ、ぁあああ!」 どくり、と白濁を吐き出す。 男も果てたようだ。二人分の白濁が俺と、たぶん男の腹も汚す。体が弛緩し、意識が遠退く。 思考を手放す間際、男から柔らかく口付けが落とされたことだけが分かった。
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