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君を守るために④
父に暴力を振るわれていること。
母は離婚して出ていってしまったこと。
れんくんと会うのをやめないと、れんくんに酷いことをされそうだったこと。
「…そうだったんだ」
「ごめ、ごめん、れんくんに、迷惑かけたく、なかったのに…結局、あの公園に、行っちゃって…もう、耐えられなくて、怖くて、痛くて…れんくんに、会いたくて…それで」
「…稔、大丈夫だよ。今度は俺が稔を守る」
「…、ダメ、だよ…」
ゆっくりと体を離す。
肝心なことを、俺はまだ伝えられていない。
「稔?」
「だって、本当は俺…れんくんに、抱きしめてもらう資格なんて、ないから」
「資格って何? 俺は自分の意思でやってるよ」
「ダメだよ…だって、俺の身体、汚いから」
「汚くないよ。どうしてそんなことを…」
「暴力、振るわれてるのも、そうだけど…俺、父さんと、せ、セックス、しちゃってる、から」
「…」
涙をこぼしながら膝を抱える。
今まで誰にも話せなかった、暗くて痛い、真実。れんくんには知られたくないという気持ちと、れんくんに知っていてほしいという気持ちがせめぎあう。
「稔は綺麗だよ」
「ち、近付かないで」
「どこも汚れてなんていない」
「れんくん、やだ…っ」
「俺は稔のことが大好きだよ」
微笑み、頬を撫でられる。
そして顔を寄せられ…あ、と思った瞬間には、口付けられていた。
「…っ」
れんくんは、ついばむように何度も何度も触れるだけのキスを繰り返す。
「れん、くん」
「俺が塗り替えてあげる」
「ん…っ」
「怖い思い出も」
「は、ふ…、んん…」
「痛い思い出も」
「ひゃ、…ん、ん」
「全部、全部…」
口の中に舌が入ってきて、その未知の感覚に翻弄される。でも不思議と嫌ではなくて、むしろその甘さに頭がくらくらしてきた。
すがるようにれんくんの服を掴むと、後頭部を押さえられ、さらに深く唇を重ね合わすことになった。
「蓮矢ー、稔くーん、ごはんできたわよー」
「…っと…はーい、今行くよ。…稔、ごはん食べようか」
にこりと何ともないように微笑むれんくんに「慣れてるのかな?」なんて感想を抱きつつ、俺は大好きなれんくんから与えられた熱で顔が火照っているのが分かった。
それからご飯を食べて、れんくんの家に泊まることになって…れんくんは、俺を抱きしめて眠ってくれた。
しかも、次の日から俺は、れんくんの家から学校に行って、れんくんの家に帰ることになった。れんくんのお母さんが学校に連絡をして、許可を取ってくれたらしい。
そして何日か経ったある日の夜…
れんくんはいつものように俺を抱きしめながら、「質問があるんだけど」と聞いてきた。
「稔は付き合ってる人いる?」
「え?! い、いないよ」
「そっか。じゃあさ…俺と恋人になってよ」
「れんくん、と?」
「うん。俺…稔のことが好きだよ。それに、恋人になったらさ、もっともっと稔のこと守ってあげられるかな、って」
「俺もれんくんのこと、好き…」
「本当? 嬉しいな。両思いだ」
「う、うん」
「ずっとずっと大好きだよ…俺の可愛い稔」
れんくんはそっと、俺と唇を重ね合わせた。
目を瞑り、されるがまま受け入れる。
父さんに無理矢理されていた時とは違って、安心できる暖かさ。
俺にとってれんくんは、"特別"になっていたんだと思う。
**
施設への入所が決まり、俺はれんくんの家から出ることになった。荷物をまとめ、玄関先でご両親に頭を下げる。
「あの…ありがとうございました」
「いいのよ、またいつでも遊びにいらっしゃい」
「稔くんなら歓迎だよ」
あたたかい家族に見送られながら、俺はまた新しい気持ちで頑張ろうと思えた。
でも…
俺は甘かった。
あの父さんが俺を諦めるなんて…そんなこと、あるはずないって、分かっていたのに。
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