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過去とつながる
「施設に入って、1週間くらい経った時だったんだけど、ビックリした。下校中にいきなり車に引っ張りこまれて、『稔は父さんとずっと一緒にいるんだよ』なんて怖いこと言われて…俺、殺されんのかなって、本気で思ったよ」
「…」
「でも悪いことって重なるんだよな。その日、事故に巻き込まれて…、まぁ、父さんも普通じゃない様子だったから、わざとなのかもしれないけど…トラックと衝突して、父さんは死んだ。それで、幸い俺は一命をとりとめたけど……それまでの記憶が全部無くなってたんだ。特に小学校の時の記憶は抜け落ちたみたいで」
「…稔と離れたあと、施設に会いに行ったんだ。そうしたら稔がいなくなっていて…居場所は教えられないって言われてしまって」
「ばーちゃんに引き取られたんだ。母さんは恋人と別れてた。でも、俺が父さんにされてたこと知ってからは、遠巻きに見ててさ。ばーちゃんとじーちゃんがあれこれ世話焼いてくれたよ」
父さんとのことは思い出したくなかったけど、れんくんのことを思い出せたのは良かった。
「何でれんくんのこと忘れてたんだろ…」
「俺との思い出は、父親との思い出とセットになってたから…かな。防衛本能の一種だと思うよ」
「…でも俺、忘れたくなかった…ごめん」
「謝らないで大丈夫。思い出してくれたことが嬉しいよ」
「わ、」
ぎゅ、と抱きしめられる。
今までと違って、すごく安心できる。
俺の大好きな「れんくん」の体温。
「…蓮矢はさ」
「うん?」
「今の俺のこと、どこで知ったんだ?」
「配達中の稔をたまたま見かけたのがきっかけ」
「よく俺だって分かったな…」
「稔はあまり変わってなかったから」
「…それはそれでどうかと思うけど、何か、改めて考えると奇跡的で、ビックリする」
「俺もそう思う。稔をまたこうやって抱きしめられるなんて……俺は、幸せ者だ」
「そ、そっか…」
照れつつも抱擁を受け止めていると、ごほん、という咳払いが聞こえてきた。
そういえば、この部屋にはもう一人いたんだった。恐る恐る見ると、青年は額に指を当て、ぎゅうと目を瞑りながら難しい顔をしていた。
「あー…その、ごめんな、俺も聞いちゃって…かなりヘビーな内容だったのに」
「あ、いや、大丈夫です。その…今さらなんですけど、あなたは…?」
「あ、ごめん。名乗ってなかったな。俺は立山 滉。下の名前で読んでくれ。名字あんま好きじゃねーから」
「ええと、滉さん」
「ん、それで」
滉さんはにこ、と微笑んでくれた。その笑みに、何故か既視感があった。もしかしてこの人も俺の知り合いなのか…?と首をかしげる。
「れんく…蓮矢の知り合いですか?」
「そうだな。朝野とは大学入ってから知り合った」
「滉はね、奏太の従兄弟なんだよ」
「え」
「あっ!その反応…奏太の奴、露原くんに妙なこと言ったんだろ」
「あ、いや、その」
「あとで締めといてやるから」
「あ、はは…」
何とも言えない気持ちになりながら苦笑すると、滉さんのポケットから着信の音がした。
「…っと、そうだ、露原くん助ける時に力貸してくれた奴がいるんだよ。そいつからだ。ちょっと電話してくる」
そう言うと、滉さんは部屋の外に出ていった。
蓮矢と二人きりにされて、今までとは違った緊張感があった。
「…ドキドキしてるね」
「…うん」
それでも、今はこの手を離そうとは思わなかった。
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