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真意(城戸視点)
興味本位。ただそれだけだった。
それがこんな結果になるなんてその時の俺は考えてなかった。ただ、呼び出された時に分かるべきだったと、今なら思う。
「…っが…!」
鳩尾を蹴りあげられ、腹の中のものをぶちまける。相手は「汚ぇな」と無感情に呟きながらさらにもう一撃。今度は頭だ。
くらくらとした頭のまま、壁に背を預けてずるずると下がると、前髪を引っ張られ、顔を上げさせられる。
「お前ってさ、昔からほんとバカだよな。後先考えねぇっつーか、ネジがぶっ飛んでるっつーか」
それはあんたのことなんじゃ…という言葉は飲み込む。そんなことを言おうものなら、半殺しじゃ済まない目に遭わされる。
「どうせあれだろ? 俺が露原のそばにいるからっていうアホな理由で目をつけたんだろ?」
「そうっすね…珍しくて。稔と一緒に居るとき、すげぇ笑ってたから」
稔…、露原に会って近づいたのは偶然でも何でもない。確かに話していく中で昔のことは思い出したけど、会うまで忘れてた。そもそも露原っていう奴がクラスに居たことすら、ほとんど記憶になかった。
それでも近づいたのは、この人の「特別」だったからだ。
この恐ろしい人に好かれるなんて、一体どんな手を使ったんだと思った。この人の露原を見つめる目は…俺には向けられたことのない優しいものだったから。
「あのさぁ、稔って軽々しく呼んでほしくねーんだけど」
「…っ、すいません」
「すいませんって言うくらいなら、最初からしなきゃいいのにな? お前って本当に救いようのない奴」
「っ、…!」
鈍い音を立てながら壁に押し付けられる。
ここは路地裏で、通りの喧騒も遠くにしか聞こえない。きっと誰も気がつかないだろう。
気付いたとしても、助けなんて来ないし…
俺は助けも求めないだろう。
「何笑ってんだよ。俺に構ってもらえてそんなに嬉しいか?」
そう。俺は、この人に構ってもらえて嬉しい。
今まで俺のことなんて道端の石ころくらいにしか思ってなかった人が、俺に感情を向けてくれている。
それが憎しみとか嫉妬とか、そういうものでも構わない。俺は、この人に強烈に惹かれてしまっている。
それが愛とか恋とか、そういうもんなのかと問われると分からない。ただひとつ望んだことは、この人の目に映って、存在してることを認めてもらうことだった。
今あんたは、俺のことを見てくれてる。
「……河瀬先輩」
例えそれが、嘲笑われる結末になるとしても、後悔はない。
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