甘い口づけ ※

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甘い口づけ ※

** 滉さんが帰ってから、二人で夕食の準備をした。蓮矢は「座ってていいよ」なんて言ってたけど、俺が「やりたい」と言い張ったら折れてくれた。 キッチンで隣に立って、野菜を切ったり、お皿を出したり…そんな何気ないことが、とても楽しかった。 夕食を誰かと食べるなんて久しぶりだし、ましてや風呂を待ったり、一緒にテレビを見たりするのは、祖父母の家を出て以来のことだった。 そして… 楽しい時間ほど、あっという間に過ぎることも、俺は久しぶりに味わった。 「もう遅い時間だ。ごめんね、こんなに長く。車で送っていくよ」 そろそろ夜も更けてきた。 終電はまだあるだろうけど、優しい蓮矢は車で送ってくれるという。 その優しさが嬉しいと思う反面、あっさり帰そうとする姿勢に、もやもやした思いが募るのも事実だ。 分かってる。蓮矢は俺のことを怖がらせないために、極力俺に触れないようにしている。 でも… 「稔?」 「……、…く…、ない…」 「え」 「まだ…帰りたく、…ない」 勇気を振り絞って伝えると、蓮矢は困ったように眉根を下げた。 「でも、もう…」 「一緒に居たい」 「…稔。そんなこと言ったら、俺は都合よく解釈するよ?」 優しく肩に手を置かれ、至近距離に立たれる。たったそれだけのことで、むず痒い緊張感に包まれる。 「い、いいよ…都合よく解釈して」 「…っ、稔」 なおも躊躇う様子の蓮矢にじれて、一歩踏み出し、踵を上げ、一瞬だけ唇を重ねる。 そういえば俺からキスするの始めてかも…なんて思っていると、今度は蓮矢から噛みつくような口付けを落とされた。 後頭部を押さえられ、密着しながら何度も何度も繰り返されるそれに、次第に思考が蕩けていく。 ねだるように蓮矢の舌が唇を這う。 薄く口を開くと、慣れた感触が口内を蹂躙した。 監禁されている時、繰り返されていた甘い口づけ。れんくんからされているんだって考えただけで、嬉しくてたまらなくなる。 「ん…ん、ぁ…」 「稔、…可愛い…。寝室、行こうか…」 「ん…」 手をとられ、ふわふわとした足取りのまま"あの部屋"に通される。扉が閉まる音が、やけに大きく感じられた。 そして、ゆっくりとベッドに押し倒される。 その先を期待して、体が歓喜にうち震える。 「蓮、矢…」 「ん…なぁに、稔…」 「…その…俺さ、ほんとに好きな人とするの、初めて、なんだ。視力なくしてここにいた時は、蓮矢のこと、れんくんだって気付けなかったし…そもそも、見えなかったし、だから、その…」 「稔」 「…ぁ…」 そっと触れるだけのキスをして、俺を柔く抱きしめる。こんな風に優しい行為を受け入れるのはすごく恥ずかしいけど、同時に心が満たされていくように感じる。 「…優しくするから」 「も、充分優しくしてもらってるけど…」 「そう?」 するすると衣服が脱がされていく。 恐る恐る俺も蓮矢の服を脱がそうとすると、蓮矢は驚いたように俺を見て、嬉しそうに微笑んだ。 二人とも着るものをすべて床に落とした頃には、耳の奥から聞こえる心臓のバクバクとした音によって、気恥ずかしさと緊張感が一気に押し寄せてきていた。 「あの、俺…ほんと、慣れて、なくて」 「稔は俺にすべて委ねて…?」 頬、首筋、鎖骨、胸…と、徐々に蓮矢の口づけが降りていく。その感覚にいちいち体が跳ねてしまうのは、相手がれんくんだからなのだろうか。 「あ…っ、そこ、だめ」 「ダメ? でも稔は、ここ好きだろ…?」 ちゅう、と胸の尖りを吸われ、目の前を星が散った。確かに蓮矢に閉じ込められている時、散々開発されてしまった場所のひとつだ。 「あ、ぁ、あ…っ!れん、ダメ、そこ…っ」 片方は舐め転がされたり、柔く歯で噛まれたり、吸われたり、もう片方は指でくりくりといじられた。その刺激に腰が浮いてしまう。 「稔…可愛い、俺の稔…」 「は、ふ…、…れん、や…?」 思考がぼやけたまま、じっと蓮矢を見つめる。 そして蓮矢は、さらに下に下がっていき、ささやかに主張し始めた俺の昂りを躊躇いもなく咥えた。 「っ?! だ、だめだ!蓮矢、そんなところっ」 「ん…、あ、む…」 「ひ、ぁあっ!あぁ、あ、ん…っ!」 蓮矢の舌技に翻弄されながら、その快感に酔う。 れんくんにそんなことをさせてしまっているという罪悪感と、少しの背徳感。さらに蓮矢は絶妙な動きで俺を追い詰めていく。 「も、無理、無理だから、出ちゃうから…っ、はな、離し…!」 「ん、…出して、いいよ…」 「そ、そこで、喋らないで…!」 蓮矢の与える強烈な快感に抗えるはずもなく。 俺は耐えきれなくなって欲を吐き出してしまった。 「だ、だめって、言ったのに…」 「…ん、」 「っ?!えっ!の、のん…飲んだ?!」 ぎょっとして蓮矢を見ると、ぺろ、と唇を舌で拭う仕草が目に入る。その淫猥な光景にくらくらしてしまう。 「稔の出したものは何だって」 「…っ!…っ!」 言葉にならず、ぺしぺしと蓮矢の頭を叩くと、くすくすと笑われてしまった。何で蓮矢はこんなに恥ずかしいことが普通に出来てしまうんだ。 「そんな風に可愛いことばかりしたら、抑えが効かなくなるよ」 「か、可愛くない」 「稔は可愛い」 ちゅ、と髪に口付けられ、抱き寄せられる。 とくとくと響く蓮矢の心臓の音が心地よい。 「蓮矢も、その、緊張してるのか?」 「ああ、そうだね。大好きな人を目の前にしたら…やっぱり緊張するさ」 「ん…っ」 「少し、じっとしていて」 前から抱きかかえられ、膝に乗せられる。そして抱きしめていた片方の手が、後孔に伸ばされ、確かめるようにつつかれる。 「ん、んん…っ、ぞわぞわ、する」 「ここ、浅いところ…稔は好きだよな」 「ぁう、っ、や…っ」 「こうやって、浅いところで出したり、入れたり…ぐるって、中で指を回されたり…」 指と、耳元で蓮矢が囁く言葉に反応してしまう。 俺の身体をよく知ってる蓮矢に勝てるわけもなく、ただただ与えられる快楽に酔いしれる。 「も、そこばっかり、嫌だ…っ」 「どこがいい…?」 「…っ、いじわる、だ」 「稔の口から聞きたい」 「…うぅ…っ」 じっと見つめられ、言葉に詰まる。 恥ずかしくてたまらないけれど、好きな人から求められて、拒否なんてできなかった。 「もっと…っ、奥、入れて…」 「入れるだけ?」 「あ…っ!ふか、い…っ」 「まだこれだけだよ。もっと、欲しくない?」 「…っ、分かってるくせに、ひどい」 「ごめん。稔が可愛いから 」 意を決して、蓮矢に抱きつく。 少しばかり残っていた理性なんて、とっくに擦りきれてしまっている。 「蓮矢ので、俺の中、訳分かんなくなるくらい、掻き回して、ほしい…っ」 蓮矢は俺の返答に嬉しそうに微笑むと、後孔に昂りを擦り付けた。熱くて、大きい、絶対的な質量。何度も何度も繰り返された行為を体は覚えてる。 早く欲しいと、浅ましく望んでしまう。 そして待ち望んだ熱に貫かれたとき、恥ずかしさやあれこれ考えていたことは全て霧散してしまった。あとは蓮矢の全てを受け止め、互いに高みを目指すだけ。 俺はその日、初めて「好きな人」に抱かれた。
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