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何もできない※
俺は男のことを何も知らない。
視力さえ戻れば、もしかしたら分かるかもしれないけど、現状それは不可能だ。
男に毎夜、体を求められ…分かったことといえば、時折聞こえてくる吐息に混じった声。俺に優しく触れる手。細身だけど程よく筋肉も付いているであろう体躯。そんなところか。
でもそれだけじゃ、相手を判別することなんてできない。
相手のことを知らないまま、日数だけが過ぎていく。そういえば、バイトはどうなったんだろう。
無断欠勤扱いで、クビになっているかもしれない。
「…」
ごろ、と寝返りを打つ。
毎朝、シャツは新品のものになっている。ただ、下に履くものは下着すらない。いわゆる彼シャツ状態だ。嬉しくも何ともない。
いつも中に出されてしまうけど、翌朝に体調を崩すことはなく…たぶん、いつも気を失っている間に中を綺麗にされてるんだと思う。
男は俺のことを何だってしたがる。
料理も男が食べさせるし、お風呂も、例えばトイレだって…
「…う」
しまった。意識したら行きたくなってきた。
ベッドの上で丸くなり、我慢する。トイレの場所が分からないから、男に連れていってもらうしかない。でも、出来るのなら本当は行きたくない。
「…っ、…は…」
行きたくない理由はひとつだ。
男は、俺をトイレにつれていくと、出すまでそばにいる。もっと言えば、出すことさえ男の手を借りないとできない。
座らせればいいものを、男はそれをしない。
そんな恥ずかしい目にあうくらいなら、我慢して回数を減らした方がいい。
無駄な抵抗だと思いつつも、男に屈したり、懇願する方が嫌だった。
「…、…」
ベッドの上で踞っていると、扉が開く気配がした。最悪のタイミングだ。どこかで見ているんじゃないかってくらい、いつも「来てほしくない」と考えている時に現れる。
「…、何…」
男は、そっと俺の頭をなでる。
もしかして、あやしてるつもりか?
腹を押さえていたからか、男は腹も撫でてくる。やめてほしい。ただでさえ我慢しているのに。
「や、やめ…別に、腹が痛いわけじゃ…ないから…」
そう言っても、男は撫でるのをやめない。
まさかわざとやっているんじゃないかと勘繰ってしまう。
…。
漏らすよりは、マシなのかもしれない。
「う…俺…、トイレに…」
「……」
男は俺の言葉を聞くと、俺を横抱きにして歩き始めた。慌てて掴まる。見えないから、いまいちどこを掴んだらいいのか、今自分はどこを掴んでいるのか分からない。
男が止まり、扉を開ける音がする。
そして俺は降ろされ、立たされる。
ここからが問題だった。
男は、俺のそれをやんわりと掴みながら、腹を撫でてくる。俺は耐えきれなくなり、尿を吐き出す羽目になる。音が響いて恥ずかしい。耳を塞ぎたくても、できない。
音と、匂いと、そして羞恥心がごちゃまぜになって、もう訳が分からない。
しかも、男はいつもそれだけで離してくれない。
ことが終わっても、しばらく俺の屹立や玉の部分をいじってくる。体をよじっても意味を成さない。その内、俺の体もその気にさせられてしまう。
「やだ、やめ…っ、も、出ない…」
「……」
何が楽しくて俺をこんな目にあわせるんだろうか。
**
「いやだ…離してくれ…」
男は、トイレでは結局それ以上何もせず、俺をベッドに連れていった。そして、俺をうつ伏せにし、腰を高く上げさせる。
抵抗といえば、ささやかに拒否の言葉を紡ぐことくらいしかできない。「見えない」ということは、確実に俺の精神を蝕んでいるようで、引き剥がす気力も度胸も沸き出てこない。
「…ひ、ぁっ?!」
ぴちゃ、という音が響く。男は、俺の後孔を舐め、ぐにぐにと舌で刺激する。
そしてゆっくりと舌が入り込み、蹂躙していく。
「そん、そんなところ、舐めないで…っ」
びくびくと腰が震える。男はたっぷりと時間をかけながら舐めすすった。
そして、いつの間にか舌は離れ、今度はぐにぐにと、すぼまりを指で押される。
つぷ、と浅いところに入れては、ゆっくり円を書くように動かし、離れる。それを何度も繰り返され、もどかしく感じる。
「あ、あ、…ぁ…っ」
腰を高く上げながら、浅ましく揺らしてしまう。
次第に指は深くまで、ゆっくりと、時間をかけながら入り込んでくる。じわじわと侵食される感覚に酔う。そして、ゆっくりと引き抜かれるたびに、何とも言えない快感が背をかけのぼる。
どれくらいされてるのか分からないくらい、じっくりと後孔をいじられ、いつの間にか自分の昂りは硬度を増し、だらだらと蜜をこぼしていた。
指も増やされており、中を拡げるような動きに翻弄される。
「は、はぁ、…、ん、んっ」
男は、俺の背に覆い被さり、優しくキスを落としていく。それに気をとられていると、後孔に熱いものが押し付けられ、ぐ、と中に入り込んでいく。
「あ…っ、あ、ぁあ! …っ」
意味をなさない言葉がこぼれるだけで、男に言い様にされてしまう。それなのに、嫌なはずなのに、体は歓喜に震える。
焦らすようにゆっくりとした律動。
もどかしい。
でも、もっと激しく動いてほしいなんて…そんなことを言えるはずもなく、俺はただただ、男が与える緩やかな快楽に溺れていった。
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